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第683話◇
思えば玲央と会ってから、ことあるごとに、嬉しそうとか、表情が緩んでることを指摘され続けてる気がする。
もう無理かもなあ、これ。
気をつけなきゃって何回も思った気がするけど、自然と顔がほこほこ緩んじゃうんだよね。
「まあ良いんじゃない、別に気持ち悪くないから」
美咲が極端な慰めでこの話を終えようとしているけど、もうそれでいいような気すらして、あんまり笑っちゃわないように気を付けるねと返した。
色々話しながら、運ばれてきたシャーベットを口にした時。あ、と話したかったことを思いだした。
「そだ、オレ、どう思うか聞いてみたいことがあったんだ」
「ん? 何々?」
二人もアイスを口にしながらオレを見つめてくる。
「あのね一緒に過ごす時のお金とかって、どうしてる?」
「割り勘とか? そういうこと?」
「うん」
「あたしは相手によるなー。割り勘の人も居たし。全部出してくれる人も居るし。女友達はその子が出してるとか言ってたよ。彼氏がお金無いとかで」
「そう、だよねぇ……人によるよね」
うん、と頷いていると、智也が「玲央は絶対出すよね?」と笑う。
「オレもなるべく出してあげたいと思うけどね」
「智也もそっかぁ……うん。玲央もそうみたいなんだけど……なんかオレ、男だしさ。彼女、とかでもないし。ほんと最初は、いいのかなあって思ってたんだけど」
「それはいいんじゃないの?」
「……いいと思う?」
「うん。出したいって言ってくれる人には出してもらうのが良い気がする。下手に払うって言ってると、そんなの払って困るように見える?とかいう人も居たしさ」
「……そうなんだ。色んな人がいるねー」
一概には言えないんだろうな。ふむふむ頷きながら考える。
「神月は、世界が違うって思うほどお金持ちなんでしょ?」
「うん。住まないマンションとかさ。すごい豪華なのに、たまにしか使わないみたいで……違う世界の話だよね?」
二人とも、頷いて、「そーだね」と、笑ってる。
「ありがとって気持ちだけ忘れないようにしてたら?」
美咲の言葉に、そうだね、と頷く。
「あたしも一回、すごーくお金持ちの人と知り合ったんだけど……なんか、ひいちゃって……やめちゃった」
「ひいちゃった、の?」
「玉の輿とか狙わないの?」
オレと智也の言葉に、うーん、と美咲は唸る。
「くれるものとかすごすぎて、そこまでじゃなくていいと思っちゃったというか……適度な感じがいいなーって」
「難しいよな、適度」
「ねー? でも結局は、そこまで好きになれなかったってのもあると思うけど。あまりに違うと色々大変そうだし。それ乗り越えてでもって思えないと……」
美咲はクスクス笑いながら、オレを見つめる。
「優月は、家柄違いすぎるとかは、気にならない?」
「うーん……? なんかすごいなーとは思うけど……色々全部違うから、気にしてたらキリがないというか……だから別にそこが特に気になるって訳じゃないんだけど……」
「ああ、逆に、違いすぎて気にならない?」
「蒼くんも、普通ではないしね……」
「あ、なるほど、ちょっと慣れてる」
美咲がクスクス笑ってそう言う。
「もし噂通りの家なら、多分優月が欲しがるものなんて、全部買っても何の苦にもならない気がしちゃうけど」
「ていうか、そんな欲しいものも無さそうだもんな、優月」
「そうよねー、誕生日とか聞いても、何も出てこないしさー……って、脱線した」
クスクス笑いながら美咲は。
「噂通りな感じなんでしょ?」
「うーん……噂、多分全部は知らないから、そうなのかは分かんないけど……すごそうとは思う……」
「そこらへん気になった時、話せる関係ならいいかも」
「うん。……そう、だね」
「話せそう?」
「ん。……実はもう、何回か話してる」
「じゃあ良いんじゃない? とりあえず、出してもらうにしても、ありがとうの気持ちだけは大事かなぁて思うけど……」
感謝か。
それだけは、ずーっとあるけど。……忘れないようにしよ。
「なんとなく分かった。ありがとね」
そう言うと、二人は頷いて。それから智也が、ふ、と笑った。
「めちゃくちゃ仲良さそうに見えるけど、やっぱり色々悩むこともある?」
「そだね。悩むっていうか、考えることはあるかな……あ、でも」
「ん?」
「一緒に居ないと考えることもできないことだからさ……玲央と居るために考えるのは、全然いいかも」
考えながら出てきた言葉をそのまま口にすると、聞いてきた智也も、それから美咲も。
なんだかすごく納得したみたいに笑って、そっか、と頷いた。
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