689 / 828

第688話◇

「……ん」  重なった唇が、触れては離れ、また重なる。  そのまま、頬にもキスされて、ぎゅ、と抱き締められる。  なんか、キス、可愛い。  ちゅっちゅされてる感じ。  思わず笑って、「……ふふ」と声が出てしまった。 「何笑ってンの」  そう言う玲央の声も、笑みを含んでて、すごく優しい。  大好き、玲央。  腕を玲央の背に回して、きゅ、と抱き付く。 「……優月」  頬に触れた玲央の手に上向かされて、ちゅ、とキスされる。 「……ほんとはもっとちゃんとしたキスしたいんだけど」  言いながら、また頬にキスされる。 「ちゃんとキスすると、優月が可愛くなっちゃうからさ。皆のとこ行くから、そんなの見せたくねーし……」  至近距離で見つめられて、優しい瞳でそんな風に言われると。  ……言われてることは、可愛くなっちゃう?と不思議なことなのだけど、でも。優しい玲央が、好きすぎて。 「……玲央」  玲央の首に手をかけて、くい、と引き寄せて、唇を重ねた。 「――――……」  今もう、玲央からたくさんキスしていたのに、オレが一度キスしただけで、玲央は、なんだかとっても嬉しそうに笑う。 「ふ。かわいー」  ちゅ、とまた頬にキスされる。 「んー……離したくないけど……」  むぎゅ、と腕の中に取り込まれて、髪にすりすり頬を寄せられる。   「玲央……」  何だか笑ってしまう。  ……なんか、もう、玲央の方が可愛いんだけどな。 「……仕方ない。行くか」 「ん」  最後、とばかりに頬にキスされて、すり、と手で頬を撫でられる。  鍵を外してドアを開けた玲央が振り返ってオレを見つめる。部屋を出て並んで歩き出すと、玲央がクスクス笑う。 「なんか……」 「ん?」 「――……ずっと一緒に居たがって、うるさい? オレ」  苦笑いでそんな事を言って、オレを見つめてくる。 「うるさい……訳ないよ?」 「そ? ならいいけど」 「何でそんなこと聞くの?」 「なんか……冷静に自分のしてること思うとさ」 「うん」 「一緒に住みたいってオレのとこ来てもらって、朝晩絶対一緒なのに、学校でも会いに行って……今もさ、ここに来ないで優月は家に帰ってくれれてもいいはずなのに、来てもらって……とかさ」  言いながら、玲央が、んー、と考え始める。 「なんか、自分でもすげー意味わかんないなと思ってさ。優月、やじゃない?」 「全然やじゃない」 「めちゃくちゃ即答だけど」  ぷぷ、と笑う玲央に。 「オレも一緒に居たいから。嬉しいし」  思うことをそのまま伝えると、玲央はふ、とオレを見つめて。   「甘やかしてると、もっとオレがすごくなったらどーする?」  そんな風に聞かれたけど。 「んー……別に。いい、かな……」 「いいの?」 「うん。いいと思う」  玲央はオレを見下ろして、そっか、と笑うと、よしよしと頭を撫でた。 「ここだよ」  ドアを開けながら玲央がオレを振り返るので、中に入ると皆が見えた。 「お邪魔します」 「あ、優月ーいらっしゃーい」  鳴っていた楽器の音が止まって、勇紀と甲斐と颯也がこっちを見て笑顔。 「優月、こっち座ってな」  部屋の端のソファに案内される。勇紀が近づいてきて、テーブルに置いてあったお茶を一口飲みながら、オレを見た。 「美味しいもの食べてきた?」 「しゃぶしゃぶの食べ放題だった」 「おーいいね、うまそー。大変だったね、こっちまで」 「電車ですぐだし」  そう答えると、いやいや、と勇紀が肩を竦める。 「玲央がどーしてもこっちに来てほしいみたいでさー。ほんと笑っちゃうよねー?」  ぷくく、と勇紀が笑いながら言うと、少し離れていた玲央が、紙コップを持って戻ってきた。 「カフェオレ。ゆっくり聴いてて」 「うん。ありがと」 「ん」  ふ、と笑んで、ギターを手にした玲央を見ながら、勇紀が固まってる。 「勇紀?」  オレが聞くと、勇紀は苦笑い。 「もう甘々なのは嫌というほど分かってるんだけど……ついついガン見してしまうんだよねーオレ……」  笑いながら言う勇紀をチラ見して、玲央が「早くやるぞ」と一言。 「早くやるぞって、オレ達が待ってたんですけど」  と勇紀は苦笑いしながらオレに「じゃね、優月」と言って、玲央の後をついてく。 「悪い、待たせた」  玲央がそう言いながら、甲斐と颯也の方に向かうと。 「つか迎えだけなのに遅くね?」 「またどっかでいちゃついてたんだろ」 「してねーし。……少ししか」  颯也と甲斐に答えた玲央の言葉に、皆が脱力しながら、ふざけんなーとか言ってるのを聞きながら。  ……ほんと、仲良いなぁ……。  オレにとっての智也と美咲が、玲央にとっての皆だよね。  そう思うと、なんだかほっこりして、笑みが浮かぶ。

ともだちにシェアしよう!