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第689話◇
少し話してから演奏が始まった。
新しい曲だから、少しで止まって、相談タイムが始まったりする。あと、歌もつかないから、楽器の演奏だけ。
今日は玲央の歌は聞けないのかも。それはちょっと残念。とも思いつつ。
こうして見ていられるだけで最高幸せ。って思ってしまう。
カフェオレに口をつけながら、ぼー、と眺める。
学校でコンテストみたいなのがあって、その後、夏に色んなとこのライブハウス回るとか言ってたなぁ。オレも連れていってくれるって。
……めちゃくちゃ楽しみ。
夏休みに合宿で免許取ろうとしていたのは無しなので、もう学校通いながらいける時に行けるやつで取ろうっと。土日メインで取れるやつがいいかなぁ……。でも土日ずっとそれだと玲央と居られなくなっちゃうけど……。うーん。少し予定考えながらだなぁ。免許は学生の間に取っておきたいし。
いつか玲央を乗せて、車運転してみたいなぁ。
なんて思っていたら、「優月」と玲央に呼ばれた。
「今から二パターン弾くから、どっちがいいか聞かせて」
「え、オレで良いの?」
「うん。参考に」
皆もこっちを見てる。玲央の言葉に頷くと、玲央が「まず一つ目な」と言って、皆の演奏が始まる。
それから、「次なー」と言って、また同じ部分の演奏。
「二つめの方が好き」
そう言うと、玲央と皆は顔を見合わせて、ニッと笑った。
「じゃあそれでいいや。サンキューな」
言いながら、玲央達が楽譜に何か書きこんでる。
今ので良かったのかなと思いながら、なんとなく皆を眺める。
甲斐のおばさんの会社と言っても、ちゃんとしたところでデビューしてるから、仕事でもある訳で。メジャーデビューするとかは決まってないとは言ってたけど。絶対人気でると思うんだけどなあ。だって、皆カッコいいし。……特に歌うたってる人がめちゃくちゃカッコいいからなぁ。ふふ。
こんなところで、こんな風に、好きな人がバンドしてるの見てるとか不思議すぎるんだけど……幸せだなあ。
もうなんか、今の気分を言葉にしたら、ただ、ホクホクとか、ホカホカ、って感じ。
色々決めながら弾く感じなので、一曲全部聞ける訳じゃないけど、止まって直す度にまた少し違う感じになっていく様が、すごく楽しい。
いいな、皆、楽しそう。
見ているこっちまで、ほんと幸せ。
幸せ時間を過ごしていると、皆が一旦休憩で、オレの方に歩いてきた。
「暇じゃね? 優月」
甲斐がそんな風に聞いてくる。
「暇じゃないよー楽しいよ」
「でも曲としてまだ弾けてねえし。止まってばっかりだしさ」
「それも楽しい」
そう言うと、そっか、と笑いながら飲み物を口にする。
近づいてきた玲央がオレの隣に立って、ペットボトルの蓋をしめながら、ふと言った。
「そういや優月も作曲とか出来る?」
「え。無理だよ」
玲央の言葉にフルフル首を振ってると、ソファに腰かけてた颯也が玲央を見上げる。
「優月って、何かの楽器弾けるってこと?」
玲央からオレに視線を移しながら、そう聞かれて、「ピアノは弾けるけど、曲作るとか、したことないし」と答える。
「ピアノ弾けるんだ。へー。なんかちょっと意外かも」
颯也がそう言って、笑う。
「何で意外なんだよ」
と、玲央が反応するけど。「よく言われる」とオレ。
「弾けなそうに見えるみたいだよね。合唱コンクールで弾くってなった時、皆が、優月弾けんの?って、びっくりしてた」
あははー、と笑うと、玲央がなんかなんとも言えない顔をして、もーお前は……と言いながら、なんだか頭をヨシヨシしてくる。
「マジで可愛いな」
ぷに、と頬をつままれて言われるけど周りの皆が苦笑いなので、オレもほんとに苦笑い。
「優月、おいで」
玲央に手を引かれて、楽器の方に連れていかれる。
「颯也、キーボード借りる」
「んー」
玲央と並んで、キーボードの前に座る。
「弾くの?」
「ん。こないだの楽譜なくても弾ける?」
「ん、たぶん」
頷くと、玲央が、ふ、と優しく微笑む。
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