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第691話◇
「あ、優月」
皆がまた演奏を始めそうなので、元居たソファの方に戻ろうとしていたら、玲央に呼び止められた。
「うん?」
振り返ると、「ひとつ頼んでいい?」と聞かれる。
「うん。何?」
頷くと、「一曲弾くから、撮影してくれる?」と言われる。
「撮影……スマホでいいの?」
「全体が入って音が聞ければいい」
「うん。分かった」
「その正面から、少し離れて撮って」
「うん」
ポケットからスマホを出して、玲央達の真正面に立つ。
ビデオで用意して構えて、「いいよー」と言うと、曲が始まった。
……うわ。
…………皆、カッコいい。
さっきまでふざけてたり、呆れたみたいに笑ってたり、冗談を言って過ごしてた皆の、すごく、真剣な表情。
いいなぁ、Ankh。
玲央が好きだからとかだけじゃなくて、もうすっかりバンドのファンになってるオレは、こんな風に練習を撮らせてもらうとか、もう、幸せすぎると思ってしまう。
もっともっと、たくさんの人に見てほしいなーって思っちゃうけど。本人たちは、そこまで望んでいないのかな。望んでたら、メジャーデビューを目指しそうだもんね。「まだ分かんない」って言ってる時点で、他の可能性も色々あるってことだよね。
……ほんと、すごくすごく、カッコいいなあ……。
スマホの画面に収まってる皆を見ながら、曲を聞きながら色々考える。
あっという間に一曲が終わる。
静かになったところで、録画を停止。
「撮れた?」
「うん、撮れた。カッコいい。すごくいいー」
笑顔でそう言うと、玲央が近づいてきて「送って」と言う。うん、と頷くと、颯也も「オレにも送って……って、そっか、まだ繋がってないか」と、苦笑してる。
「そういやオレも知らないな」
と甲斐。
「オレは知ってる……つか、玲央よりオレのが先に知ってるし」
「…………」
勇紀があっかんべーして言ったセリフに、玲央がチラッと勇紀を見て、ちょっと目を細める。
「……なあ。優月のこと、オレらのグループの中に入れてもいい?」
玲央がそう言って、三人を見回す。
え? とオレが声を出したのと重なるように、三人が「いいよ」と答える。
「どーせこれからもこうやって連れてくんだろ?」
甲斐がそう言って、おかしそうに笑う。
「オレが優月入れるの反対するわけないしー」
勇紀はそんなこと言って、ふ、と微笑む。
残ってる颯也に、皆の視線が向くと。
「つか、もう、メンバーみたいなもんじゃねえの? ずっと居るじゃんか」
笑いながら言った颯也に、皆が、ははっと笑う。
「え、オレ、邪魔じゃない? バンドの話とかするでしょ?」
なんだかとっても焦って言うと。
「バンドの仕事っぽい連絡事項は、社長とかとのグループがあって、そっちでやるから。オレらだけの方は、優月居ていいよ」
玲央がオレを見て、優しく笑う。
「これからも、こんな風に玲央が優月連れてくるだろうし、入ってた方が、便利だろ」
そう言って笑う甲斐に少し首を傾げつつ、にこにこの勇紀と、何だか面白そうにオレを見てる颯也と目を合わせてから、最後に、クスクス笑う玲央を見つめる。
「えと……じゃあ……いいの?」
言うと、皆、クスクス笑って頷く。
「じゃあオレが招待するねー」
「は? オレが呼ぶし」
また良く分からないやり取りを始めた勇紀と玲央。
「勇紀、玲央で遊ぶなよ。時間かかる」
苦笑いの颯也に、「遊んでないけどー」と勇紀がクスクス笑ってる間に、スマホを弄ってた玲央から、ぽん、と招待メッセージが入ってきた。
「ほんとに入っちゃうよ?」
そう言うと、皆、イイって言ってんじゃん、みたいなことを口々に言う。
招待を受けると、皆のトークグループに入室。
「わー。なんか感激かも……」
そう言うと、隣にいた玲央が、ふ、と瞳を緩ませて。そうかと思うと手が伸びてきて、頭をよしよし撫でられた。
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