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第692話◇

 練習が終わって、皆と別れて、駅に着いた。 「疲れたか?」 「ううん。元気だよ」  玲央に聞かれて、笑顔で答えると、そっか、と玲央が笑う。 「演奏、良かったー」 「まあ、あれまだこれから色々するんだけどな」 「そうなの?」 「ある程度できたら、会社に送って、色々調整してもらう」  なるほど、と頷いていると、玲央が、ふ、と笑ってオレの手に触れた。  そのまま繋いで、一緒に歩く。 「――――……」  ドキドキ。するなぁ。ずーっと、一緒に居ても。  ものすごく。 「玲央と手、繋ぐの」 「ん?」 「……すごく好き」  そう言って、玲央を見上げると、玲央は少し固まって。それから微笑んだ。 「オレも」  ふふ、と笑い合って、のんびり歩く。この道は、ほとんど人気も無いし、ほんとにのんびりゆっくりで。 「ねー、玲央」 「ん?」 「皆のとこ、入れてくれてありがとね。なんかすごい、嬉しかった」 「……ああ」  少し間が開いて、じっと見つめられた後に、笑いながら頷く。  今の間はなんだろ、と玲央を見てると。 「ほんと、まっすぐ……自分の気持ち、言うよな」 「んー? そう?」 「ん。そうだと思う」  ふ、と玲央が笑いながら、オレを見つめる。 「一瞬、何て答えようか考える時がある」 「……困る?」 「困るっつーか……んー、全然困ってはねえけど」  ちょっと苦笑い。でも優しい笑みで。だから、次の言葉を待って玲央を見つめていると。 「さっきの、手をつなぐのが好きってのもだけど……可愛いとしか思えない」 「――――……」  急に恥ずかしいセリフになって、オレの方こそ、ちょっと答えに困る。 「なんかまっすぐ色々言われると、可愛いなーと思ってさ。でも、可愛いって答えるとこじゃないかと思うから、返事を考えるんだけど。可愛いしか、頭にないかも」 「……あの」 「ん?」 「オレの方こそ、返事に、困るんだけど……」  めちゃくちゃ照れながら、そう言ったら、玲央は「ああ、そう?」と笑う。 「なんつーかさ……」 「うん?」 「オレ別に、皆に素直に全部言われたい訳じゃねーんだよ。言われて疲れることも今まであったし、全部言われたい訳じゃない」 「うん。そだよね……」 「だから、素直なのが全部、すげー可愛いと思うのは」 「うん」 「優月の言うことが、オレには、すごくハマるってことなんだと思うんだよな」 「……はまる?」 「優月が、優月の言い方で、素直に言うことが、オレには、すげー可愛く、見える」 「――――……」  なんだか。ぽわぽわ、あったかくなってきた。 「で、結局こういうのが相性が良いってことだと思うんだよな」 「相性……」 「何言っててもしてても、可愛く見えるとか、すごいだろ? しかも……こんな、オレみたいな奴が」  ふ、と玲央が苦笑いを浮かべて、それから、またオレと視線を合わせると、瞳を優しく緩ませる。 「てことで、何してても可愛いと思ってるってこと。な?」 「……」 「で、優月がまっすぐ何か言ってる時、オレが黙ったら、可愛すぎるって思ってるってことだから。沈黙、気にすんなよな?」 「――――……」  そんなことを言って、どう返事をしていいか困ってるオレを見つめてクスクス楽しそうに笑いながら。  くい、と繋いだ手を優しく引かれたと思ったら。一瞬だけ足を止めて。  ちゅ、とキスされた。  そのまままた手を引かれて、一緒に歩き始める。  もうなんか、ときめきすぎて、胸が。  苦しいんですけど。  そんなことを思っていると。 「月、綺麗だな」  空を見上げてから、玲央がオレに視線を向けてくる。  綺麗だけど……玲央と居ると、余計に綺麗に見えると思いながら、うん、と笑顔で頷いた。

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