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第699話◇

【side*玲央】  まだ薄暗い中、ふ、と目が覚めると、優月が腕の中に居た。  すっぽり、腕の中に、納まってる。  ……は。かわい……。  顎に触れてるサラサラの髪の毛に、すり、と頬を寄せてから、自分の行動に気づいてふと止まる。  変われば変わるというのか、勇紀たちや稔や、その他関わる皆が驚く以上に、自分のことが不思議な時がある。  優月に対してとか、他の奴に対する態度やセリフ以上に、表に出してない、自分の中の気持ちが一番変わってる気がする。  こんな風に腕の中の誰かを、愛しいとか。  外に遊びに行かずに、家の中で誰かと二人で夕飯作って食べるだけでいいやとか。朝、早く起きて、旨い朝ごはん食べさせてやりたい、とか。  人生でこんなに早起きが楽しいこと、なかったしな……。  優月を見た時に、自分の中に浮かぶ、言葉にはできない感情。  初めてな感情が多すぎて、そこが不思議。  ほわ、と柔らかく開くような。  ふわ、と浮かぶような。  思わず笑ってしまうような。  強く、抱き締めたいと、燃えるみたいな時もあるし。  言葉にしようと思うと「可愛い」とかそういう言葉にしかできないのだけれど、そんな言葉では表せないような、ピンクだったり赤だったりの色がつくみたいな、感覚。  世界が色付く、みたいな歌詞をみたことがあるような気がするけれど、今は分かる気がする。華やかな、明るい色。 「――――……」  サラサラの髪の毛を、そっと撫でる。  この髪の感触も。優月の頬の感触も。  ……ほんと、ずっと触っていたいと思うとか……前のオレに言ったら、意味分かんねぇって言いそうだけど。  真面目に運命なのかなと思うくらいに惹かれてる。  オレは、そう思ってる。  言ってしまえばオレは、色んな奴をそういう対象で付き合ったりしてきて、今までと比べて、優月が全然違うって自分で分かってる。  優月に向けてる感情が、今までとは、まるで違う。  でも……優月は、どうなんだろうな。  今、オレのことを好きで居てくれてるのは、分かってるけど。  優月には、比べる相手が、居ないんだよな。  好きになった奴、くらいは居ただろうけど、キスしたこともなくて、女と触れ合ったこともないわけだから。  なんか。真っ白なものに、一気に色んなもの塗りこんで色を変えて、訳も分からないまま、染めてしまった、みたいな。  そんな感覚が、少しあるかも。  優月は、柔軟で、まっすぐで。優しいけど強い。  流されてるとかそんな感じは、しないし。  誰かのせいにして……例えば、オレを責めたりすることはないのは分かってるけど。  何人か経験してきてて、それから選べた方が良かったかも。と思う気持ちはあるのだけれど。  腕の中の優月。少し抱き締めた腕を解いて、すり、と優しく頬を撫でてみた。 「……んー……」  ぴく、と動いて、優月はそのまま、すう、と眠りにつく。   「――――……」  一番自分が違うと感じるのが、この「独占欲」。  キスするのも、そういう「気持ちいい」も、こうして一緒に抱き合って寝るのも、優月が全部初めてで、こんな優月を誰も見てないっていうことが。  なんだか特別で嬉しい。  そういうのが初めての奴なんて面倒くさいとか思ってたし、慣れてる奴のが楽だと思ってたのに、変われば変わるもので。  優月に、選ばせてあげたかったと思う反面、全部オレとが初めてで、全部オレが教えてる感覚が、なんか嬉しいとか。  オレしか知らない、て思うのが、楽しいとか。 「――――……」  もう一度、すり、と触れると。  今度は、少しだけ目覚めたのか。 「……れお……」  それだけ言って、ふわ、と微笑んで、そのまま、またスヤスヤ眠る。  ――――……可愛くて微笑んでしまう。  ああ、ごめんな。  ……やっぱりすげえ好きかも、お前のこと。独占してたい。  一生、オレだけ知ってればいいって、思った。  今のまま、優月が幸せそうに笑ってられるようにするから。  ずっとオレだけでいても、後悔させないように。  ……とか。  言葉にしてしまうと、オレの柄じゃねえと思うんだけど。  まあ……そんな気分。  そこで考えは落ち着いた。  優月を抱き締めなおして、夜明けまであと少し。  眠りなおすことにした。      

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