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第701話◇
「今日はお昼、クロのところに行ってくるね」
別れ間際、正門でそう言われて、即「オレも行く」と言って、約束して、昼を待っていたのだけれど。
一限が終わって外を見ると、雨が降ってきていた。
昼くらいまではもつかと思ったんだけどな、と思いながら、仕方なくスマホを取り出した。
『優月、雨だから行かないよな?』
少し返事を待っていると、『うん、行けない。残念』という言葉の最後に、うさぎが泣いてる絵文字がくっついてる。
ハムスターも似てるけど、うさぎも似てるな……。
ふ、と口元が勝手に綻ぶのを感じながら、返信。
『昼、一緒に食べる?』
そう入れかけて、送信ボタンを押すのを躊躇う。
朝も帰ってからも一緒なのに、昼、友達と食べるのまで奪ったら良くないよな、そう思って、文字を削除した。
『晴れてる日、行こうな』 そう入れると、優月からは、『うん』とニコニコのハムスターのスタンプが送られてきた。
……かわい。
「……きもい」
隣から、ものすごく低い声が聞こえてきた。
「うるさい、稔」
「だってキモい……どうせ相手は優月なんだろー?」
「……あたりだけど。ンだよ?」
最近恒例と言うか、そんなやり取りだなと思いながら稔を眺める。
「だってさー、あの、クールイケメンで、超絶塩対応がカッコいいとか言われてた玲央がだよ?」
「……最後の方のは知らねえな」
「一人のほわほわな奴とのやりとりで、デレデレとスマホ眺めて笑ってるとかさぁ、キモイ以外の何物でもないだろ」
はーやれやれ、とおおげさに首を振ってる。
……まあ。
稔からしたら、良く分かんねえのは、分かるすぎるくらいに分かるのだけれど。
「つか、そろそろ慣れろよ。もう最近ずっとこんな会話してねえ?」
「まあ、慣れてはきたよ? 慣れてはきたんだけど……やっぱ、デレデレの玲央はキモイと、オレの本能が言ってる」
「何が本能だよ……」
呆れて稔を見て、苦笑い。
「そういえば朝、オレ、優月に会ったんだよね」
「あぁ、そうなのか」
「今日も玲央と一緒だったのって聞いたら、うんって、すげー純粋な感じで、ニコニコするからさぁ。ついつい、聞きたくなってさ」
「何を?」
「毎日玲央の相手って疲れない?って」
「は?」
「もちろんオレ、そーいう意味で聞いたんだけど」
「お前……」
なにしてんだよ、と眉を寄せてると。
「毎日すごく楽しいよ~、だって」
「――――……」
「全然意味通じてなくて、楽しいよーてニコニコされちゃってさぁ」
稔がめちゃくちゃ苦笑いを浮かべている。
「なんかもう、あ、それは良かったな、て言っちゃったんですけど、オレ」
「――――……」
ぷ、と思わず吹き出してしまった。
「だめだ、アレ。毒気抜かれるな」
クッと笑いながら、口元、手で押さえる。
「――死ぬほど、可愛いだろ」
ニヤニヤしながら言ってやると、隣で稔は、はーー?!としかめっ面。
言葉の意味とか何にも気づかず、今もきっと、楽しそうなんだろうなあと思うと、目の前の稔の表情との対比で、ふ、とまた笑いがこみあげてしまう。
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