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第702話◇

 稔といつも通りの会話をしていたら教授が入ってきて、授業が始まった。  一応は聞きながら、さっきの会話を思い出す。  稔に面白半分で聞かれて、きっと即座に楽しいと答えたんだろうな。そのニコニコの笑顔も、目に浮かぶ。キラキラの純真全開の笑顔に何も言えなくなってる稔もセットで浮かんで、また笑ってしまいそうで、意識して口元を引き締める。  ……優月を汚せないと思うのは、そういうとこだよなー。  どんなにやらしいことして、めちゃくちゃにしても、終わったら、元通り。  抱いたのがなかったことになってるレベルで、綺麗になってる気がする。  抱いた後の、腕の中にいる優月とか。  ……あれはもう、赤んぼレベルで可愛いもんな……。  ってほんと、オレは一体何考えてんだ。  苦笑いを噛み殺しながら、口元を押さえながら、ノートをとる。  今日は……優月んちか。  優月の家に行って、アルバムを探しながら、引っ越しのなんとなくの計画だな。荷物、どん位あるかとか。業者に頼まないとなんねーだろうし。  ……まあ実際引っ越すその前に、優月のお父さんにも会って、一緒に暮らすこと言わないと。……つか、優月のお母さんにはバレてるっぽかったよな。お父さんには伝わってんのかな?  週末はじいちゃんとこ行くし。こっちは別に挨拶ってノリじゃねえけど。ただ、じいちゃんが、優月と話したいんだろうし。……オレが本気かも、きっと確かめようと思ってるんだろうなと思う。蒼さんも久先生も居るし。変な空間だけど。  ……なんかあれだな。  結婚とか、意識してるみたいなノリのこと、してる気がする。  親族、親しい人の顔合わせ、みたいな。  じいちゃんとこ行ったら、うちの親にも会わせるか? 居るか分かんねえけど、居たら寄るか……は、優月に任せるか。  いや、優月に任せたら、会いたいーて即言いそう……。  変だよなぁ。ほんとに。  優月に会うまで、こんなようなこと、可能性すら考えてなかったのに。  誰かひとりと付き合うとか。  誰かと、一緒に暮らそうとか。  家族の誰かに、紹介するとか……。  つか、そもそも、こんなに誰かを好きになるとか。  それが考えられなかったから、それに付随するすべてが、ありえなかったんだよな。   オレがどうしても嫌だった、嫉妬とか疑うとかを、優月は全然しない。あまりにしないから、して良いよ、と逆に思うくらい。  好きなんて重くてごめんだと思ってたのに、好きって言われると、何とも言えない気持ちになるし。  まっすぐで、素直で、優しくて。  ……なんか、とにかく、全部、可愛い。  ぴったり、ハマったんだよな。  ……正直、オレみたいなめんどくさい奴にハマる相手なんて、居ないと思ってたから、ほんと、不思議だけど。  そんなようなとりとめもないことを考えていたら、授業終了のチャイムが鳴った。文房具を片付けていた時、スマホが震えて確認したら優月だった。 『玲央、お昼、一緒にしてもいい? 会えると思って、楽しみにしてたから。一緒に居るのが勇紀たちだったら、行こうかなって思って』  良いに決まってるし、と思った瞬間。 『オレ知らない人で、無理なら大丈夫だよ、夜も一緒だし』  続けてすぐに、ぽん、と入ってきたメッセージ。    さっき、昼一緒に、と入れて、送らずに消したメッセージを思い出す。  おんなじ気持ちなんだろうなと思うと、愛しくなる。 『一緒に食べよ。どこがいい?』  そう返していると、隣で稔が「またニヤついてるしー」と苦笑いでオレを覗き込んでくる。 「……だから、死ぬほどかわいーんだって」  返信を送りながら、稔にそう言うと、隣で、「まだ昼食べてねーのに、腹いっぱいな気分……」とかブツブツ言ってる。

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