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第703話◇
勇紀たちが居る食堂で優月と待ち合わせすることになって、稔も一緒に向かう。
「あ、そういや全国各地、周るんだって?」
「あぁ、夏休みな。何カ所か大きめなライブハウス厳選して、だけどな。早く動かないと」
「優月も連れてくって?」
「ああ。……つか、もともとは、優月と夏の思い出作ろうって話からスタートした話なんだよな」
オレのセリフに、稔は、へー、と頷きながら。
「つか、バンドの全国ツアーを口実に、優月とイチャイチャ全国旅行を楽しもうって訳ね」
「口実にって……別に、そういう訳じゃねえけど」
「ねーけど、何?」
「もともとは優月が、二週間位の合宿で運転免許とろうとか言うから、それはやめてもらって……なんか、その合宿を楽しみにしてたっぽかったから、じゃあオレらと、って言ったんだよ。で、その話をあいつらにしたら、ついでにツアーする?ていう話になって」
そこまで言うと、稔はちらっとオレを見上げた。
「何で二週間の合宿やめてもらったんだよ。……まさかまさか、二週間も優月がいないなんて寂しいから耐えられない、絶対やめてーとか言ったんじゃないだろうなぁ??」
「……んなこと言うわけ」
言いかけて、あれ? と少し止まる。
稔の言い方は気持ち悪いしそんな言い方はしてないが、二週間も離れるなんて嫌だし、知らない奴と合宿なんて心配だし、と、やめてもらったのは、あってる気がする。
否定しかけて止まったオレに、稔が、ひいいいーと騒ぎだす。
「え、まさか言ったの?! 寂しいからやめてーって?」
「そんな言い方する訳ねぇだろ」
やかましいわ。とツッコミを入れる。
雨が降っていて、皆傘もさしているし、稔の騒ぎに周りはそんなに気にしていないようにも見えるけれど。
「って、そんな言い方、玲央がするわけないのは分かってる」
一通り騒いだ後、あははー、と笑いながら稔が言う。
「なら騒ぐなよ」
最大限、嫌そうな顔で言ったオレを見て、稔が笑う。
「でも言い方違っても、そういう内容のことは言ったんだろ?」
「……ノーコメで」
「ノーコメの時点で肯定してるっつの」
呆れ笑いの稔。と、その時。
「あ、玲央。……と、稔だー。今日二回目だね」
斜め前方の道からオレを見つけてとことこ歩いてきた優月。
オレの隣に立って、稔にそう笑いかけてる。
「そうだな。……なあ、優月?」
「んー?」
三人で並んで食堂に向かって歩きながら、稔に呼ばれた優月がのんきな声を出してる。
「優月ってさ」
「うん」
「最強だと思うよ、オレ」
「……ん? 最強?」
きょとん、として、んん?と稔を見つめている。
可愛い、なんてその顔を見て思ってしまいながらも、からかうなよ、と稔を軽く制すと。
「からかってない。ほんと最強」
「……んー?」
しばしきょとんとした後。優月は、オレを見てから、稔を見つめ返した。
「良く分かんないけど……玲央が最強だよ~?」
「玲央の何が最強?」
「えー。んー……。何だろう。なんか……カッコよすぎる?」
少し考えた後、そんなことを口走って、ふふ、とか笑ってる優月。
稔は、苦笑しながらオレを見て、「絶対こっちが最強だよな」と言って、可笑しそうに笑う。
「でもオレ、稔も、最強だと思うんだけど」
クスクス笑いながら言う優月に、オレも稔も不思議に思う。
「ん? オレ? 何で?」
「え、だって……玲央みたいな人に、その勢いでツッコミ入れられるの、ほんとにすごいなって。面白いもん」
玲央みたいな人。
……優月にとってオレがどういう立ち位置なんだろうと思いながら聞いていると、稔も同じことを思ったみたいで、「玲央みたいな人……ってどういう意味?」と聞いてる。
「えーと……つっこむとこなんて、無い気がして」
「……お前、ちょっと目を覚ませ。あるだろ、ツッコみどころ、もう、満載だぞ、特に優月と絡むようになってからは、ツッコミどころしかないぞ」
「んなことはない」
「あるって」
オレのツッコミに、くわっと噛みつくみたいに言い返してくる稔に、ため息をついていると、優月がクスクス笑い出した。
「やっぱり、面白いよー」
あまりに楽しそうに笑うので、稔への文句も吹き飛ぶ。
「はー。お前今、超可愛いなーとか思ってるだろ」
笑ってる優月からオレに視線を移して、ため息交じりでぼそ、と囁いてくる稔に、ただ、べ、と舌を見せた。
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