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第704話◇

◇ ◇ ◇ ◇ 「あ、優月、こっち来たの?」  食堂、席の方に行くと、勇紀が優月を見つけて、嬉しそうに笑った。 「オレも居ますけど」  稔が言うと、勇紀は苦笑い。 「え、だってお前はよく居るから。優月はご飯一緒にはあんま食べないじゃん」  ははは、と笑って、稔に弁明してる勇紀を見ながら、優月はふふ、と笑った。 「ほんとは玲央と、猫のとこに行こうと思ってたんだけど、雨が降ってきちゃったから、行けなくなっちゃって」 「あ、そうなんだ。いつも言ってるクロちゃんだよね」 「うん。あ、言うならクロくん、なんだよ」 「ぁ、オスなのか?」 「うん、そうなの」  言いながら優月は勇紀の隣に腰かけた。  席の配置的に隣に座るのもさすがに変なので、優月の正面の席にオレは座った。 「オスじゃ、玲央、ライバルじゃん」  ぷぷーと勇紀が笑ってる。  何言ってんの、と優月に突っ込まれてるけど。  そこに甲斐と颯也と、なんとなくいつも一緒の他の奴らも現れて、適当に座っていく。 「よ、優月。昨日はお疲れ」  颯也が言って、優月は、うん、と頷く。「皆もお疲れさま」とか答えてる優月を見ながら、オレは立ち上がった。 「買いにいこーぜ」  そう言うと、皆もそろって、立ち上がる。 「優月、あのさ」 「ん?」  皆が前を歩いていくのを後ろから二人で並んで歩きながら、優月を見下ろすと、にこ、と笑いながら見上げてくる。 「今日夕飯、どこで食べる?」 「あー……オレんち、行くんだもんね。行ってからだと、遅くなっちゃうね」  んー、と考えてから、優月は、あ、と嬉しそうに何だか目をキラキラさせてオレを見つめた。 「オレの家、泊ってみたりする?」 「ん?」 「引っ越しちゃうんだったら、記念に」 「記念? ……そうだな、泊ってみたいな。優月の部屋」 「うんうん、じゃあそうしよ。玲央のお家にくくらべたら、めちゃくゃち狭いけどね」  そんなことを言いながら、めちゃくちゃ嬉しそうにニコニコ笑って頷いている。 「なんでそんなニコニコ?」 「えー、だって、なんか、玲央がオレの家に泊まってくれるとか……」  そこまで言って、オレの顔に視線を戻して、ふ、と瞳を細めてまた微笑む。 「嬉しいしか、ないよね」  言い切って笑う、優月。  ……可愛いしか、ないよな、これ。 「あ、でも……」  と言いかけて、はっと気づいたように、すぐ口を閉ざした。 「ん? でも?」 「あ、あとでいい。ごめんね」 「何? 気になるから、言ってみ?」 「……あの……ほんと、どうでもいいことなんだけどね」 「ん、何?」  聞くと、あの……とちょっと恥ずかしそうな顔をして、周りをきょろきょろする。近くに話を聞いてそうな人が居ないことを確認してから。  片手で口元を隠しながら、オレに口を寄せた。 「お風呂は狭いから、一緒は無理かも……って、思って」  言ってから、かぁぁ、と赤くなる。 「ごめん、こんなとこでこんなの、言いかけて……ごめんね」  赤くなってる優月に、もう、キスしたい衝動が浮かぶのだけれど。  ……食堂の、メニューの前。超目立つとこだな。……まあ、さすがに無理だな。 「……狭いなら、くっつけていいんじゃねえの?」  こそ、と囁き返すと。ますますかぁぁ、と赤くなる。  優月が言ったことなんだけど。……まあ、とっさに浮かんだってだけで、言わないで終わらせようとしてたからな。 「楽しみだな、行くの」 「……えと……えっと……」  うわーん……って顔してる。  はは。可愛いな、ほんとに。  

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