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第705話◇
「なんか、優月、どんどん赤くなる……」
つい、手が伸びて、頬に触れてしまう。
「熱すぎ……」
「……うぅー」
ふ、と顔をそらして、優月が両頬を自分の手で、挟み込んだ。
「もっと赤くなるから、触んないで」
そんなことを言って離れていくけれど、なんにしても、言い方が可愛い。とか思っていたら。
「もー、二人はメニューの前で、何してんの?」
呆れながら近づいてきたのは、もう食事をのせたトレイを持ってる、勇紀だった。
「わー、優月が真っ赤なんだけど。もー何してんの、玲央」
呆れたように勇紀が言うと、「オレが自分で言って、勝手に恥ずかしくなってるだけだから」と、優月が返事をしている。
「んー? 優月、何言ったの?」
「……い、言えない……」
「あ」
余計に赤くなった優月に、勇紀は、しまった、みたいな顔をしてる。
「とりあえず、ご飯、買っておいでー? もー玲央、優月からかってばっかりいないでさぁ。可愛いのは分かるけど」
勇紀の言葉に、優月は、玲央のせいじゃないからと言いながら、とことこ食券売り場に進んでいく。勇紀の視線を感じて、なんだよ? と言うと、勇紀は、やれやれと言った風に苦笑い。
「オレ、玲央って、恋してもクールなままなんだろうなーって思ってたんだけど」
「……知ってんじゃんか、中学の頃とか」
「いや、覚えてないし、あの頃は、なんか玲央、喧嘩してたりで大変そうだったような記憶しかないし」
「あー……」
なるほど。と頷きながら、トレイを持って並び始めた優月を目で追う。
「こんな、ずっと近くに居たい人だったんだということに、ほんとびっくりする。……てか、ごめん、いいよ、優月んとこ行って。先に席に行ってるー」
最後の方はクスクス笑いながら言って、勇紀は離れていった。
食券を買って、トレイを持つ。優月の隣にはまた別の奴が並んでいるので、その後ろに並んだ。
顔赤いの、収まったみたいだな、なんて思いながら。
別に、からかいたいって訳じゃないんだけど。
……なんか可愛いから、つい。だよな。
なんか、オレ、小学生とか。そんな風な、ガキっぽいか?
……とか、考える日が、オレに来るとは思わなかったな。
苦笑してしまいそうで、口元引き締める。
食事をトレーに乗せて歩き出したところで、優月が端っこで待っているのに気づいて、近づくと、ちょっと困った顔。
「どした?」
「んー……玲央、ごめんねー?」
「ん?」
「オレが勝手に赤くなったのに、なんか、玲央のせいみたいな感じに」
「まあ半分オレのせいでもありそうだからな」
笑いながら答えると、ぷるぷる首を振ってる。
「自分で恥ずかしくなっただけだから」
並んで歩き出しながら、そんな風に言ってる優月を見ていると。
……やっぱり、可愛くて、頭撫でてやりたいなーとか、思ってしまう。
「優月?」
「うん?」
「オレ、お前が何しても可愛く見えるみたい」
「……」
は? と口が開いて。でも音が出ず。
次の瞬間、優月はカッとまた赤くなった。
「ずっと可愛いって思ってるし、だから言うと思うし、可愛すぎて、ちょっとからかうこともあるかもしれないけど」
「…………っ」
「許せよな?」
クスクス笑ってしまいながら、隣の優月を、ん?と覗き込むと。
許すも許さないも、ないし……とぶつぶつ。何やらもごもご言ってるのが可愛くて。ふ、と笑ってると。
「……この赤いのは、玲央のせいだよぅ……」
とか言ってから。ふ、とオレを見上げて目が合うと。
照れたみたいにちょっと俯いて。
でも、またオレに視線を向けて、ふ、と嬉しそうに笑う。
可愛いから、もう全部オレのせいでいいけどな、と、思った。
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