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第711話◇

 三限が終わって、四限に移動中。雨が降ってたので、いつもなら外に出るんだけど、隣の校舎の中を突っ切って移動していたら、「優月くん」と呼び止められた。 「あ」  振り返って、呼んだ本人を見て、オレは一緒に居た友達に、先に行ってと伝えた。 「春さん。こんにちは」 「うん。元気?」  クスクス笑うその人は、オレのマンションの隣人。|江波 春仁《えなみ はるひと》さん。 「はい。学校で会うの久しぶりですね」 「今日は卒論のことで来たよ」 「そうなんですね」 「ん」  頷いてから、春さんはふとオレを見つめた。 「そういえば引っ越しどうなった?」 「あ、するんですけど……まだいつとは……今週末に決まったら、動くかもです」  希生さんのところに行って、ちゃんとOKが出て、うちの家族とも一度話して、かな。 「今はどうしてる? 隣に居る?」 「今、玲央の家に泊まってて。今日はいったん帰りますけど」 「そっか、優月くん引っ越したら、寂しくなっちゃうね」 「そう、ですね……。とってもお世話になりました……ってまだ早いんですけど。春さんは卒業したらあのマンションは出るんですか?」 「仕事がどこかによるかな」 「あ、そうですよね」 「まあ、また遊びにきてよ」 「はい」  笑顔で頷いてから、ふと時計を見た。 「授業ギリギリ?」 「あ、はい」 「行っていいよ、ごめんね、引きとめて」 「いえいえ。会えてよかったです。じゃ、また」  軽く頭を下げて、春さんから離れて教室へと急ぐ。  ほんと学校で会うの、久しぶりだったかも。  四年生になると、学校あんまり来なくても良くて、就職活動とか卒論とかが忙しくなるって聞いてるけど……。  今みたいに何時間も、友達と授業受けて、皆と過ごすっていうのも、なくなっちゃうんだなあ。  そう考えると、就職活動とか、三年位から話に出るだろうし。  大学生活って意外と短いのかも。  こんな風に毎日大学来て、会いたければすぐ会える、この環境って。  今だけかなあ。  仕事始めたらそうはいかないもんね。んー……。  そう考えると、貴重な残り、二年と半分。  教職はとるから、教育実習は行くし。免許取るし。あと、何だろう。大きいこと。  今年の夏は、玲央達のライブについてくから、それと、教習所で夏は終わりかな。引っ越しもするかも……?    そんなことを考えながら、時間ギリギリ教室に滑りこむと、さっき先に行った皆と目が合った。近くの開いてる席に座ると、「さっきの人誰?」と聞かれた。 「マンションの隣の人。四年生だよ」 「ああ、道理で。先輩ぽかった」 「仲いいんだ~。色々分けあったり。ご飯一緒に食べたりしてて」 「へー?」 「え、マンションが隣ってだけの人と?」  なんだか驚かれて、首をかしげてしまう。 「え? あ、うん。そうだよ」 「なんかすごいよな、優月」 「ん? 何で?」 「隣の人と、なかなかご飯食べようなんてならないと思って」 「でも同じ大学だから余計仲良くなったんだと思う。最初、色々学校のこと聞いてたし」 「同じ大学なんて、何千人も居るからね~優月」 「そうだよ、ヤバい奴だったらこわいじゃん。気を付けないと」 「うーん……でもイイ人だよ?」 「結果論でしょ。変な人だったかもしれないじゃん」 「あんまり知らない人についてっちゃだめだよ」 「えー……知らない人っていっても……」 「優月、彼氏に聞いてみな? 心配すると思うよ?」  彼氏、のところだけこそっと言う友達に、頷きながらも。 「……うーん……」  そうかなあ。玲央心配するかな。  そういえば、思えば今までも、よく知らない人についてっちゃダメとか、言われて生きてきたような。ていうかそんなことしないよ、オレそんな、知らない人について行かないし。と、言いながらきたんだけれど。  確かに、春さんのことは挨拶に行った時、同じ大学だーっていって、喜んじゃったような。  イイ人だったから、良かったってことなのかな。  そうか。部屋にあげちゃうとか、ほんとはだめなのか。  んー。なんか。昔から、近所とかでもそんな感じで生きてきちゃったもんね……。商店街も馴染みの人ばっかりで。  さすがに、玲央の家に勝手に誰か上げたりはしないけど。  ……それと同じ感じで、自分のとこもだめなのかな。 「なんか難しいねぇ……」  考えながら、うーん、と唸りながらそう言ったら、周りの皆は、オレをパッと見て、それから。 「そのままでいいぞって言ってやりたいんだけど」 「ちょっと気を付けて」 「彼氏によろしく伝えといて」 「え、何を?」 「ここらへんの話一通り」  一人が言うと、皆が、うんうん頷くので。  オレは、一応、うん、と頷いた。  玲央に一通り話して、何になるんだろ。  ていうか。  さっきも渋滞作りそうとか言われたし、これも彼氏に伝えといてとかさ。  皆の中のオレって……。  相変わらず、心配されてしまう傾向にはある気はするのだけど。  おかしいな、オレ、一応ちゃんと、無事生きてきてると思うんだけど。  すぐ教授が入ってきたので考えるのはやめて、授業に集中することにした。   ……ま、いっか。  あとで、玲央に、全部一緒に聞いてみよっと。

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