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第712話◇

 授業が終わって、正門で玲央を待っていた。  雨がまた強くなって、ぼー、と地面を打つ雨を眺めていると。 「優月」 「あ。玲央」  呼ばれて、顔を上げて、その先に、玲央の笑顔。  ……幸せすぎる。 「ごめん、少し延びた。結構待った?」 「全然。大丈夫。玲央待ってるのは、楽しい」 「そう?」  一緒に歩き出しながら、うん、と頷く。 「だって、玲央が来てくれるんだもん」 「待ち合わせてるんだから、当たり前だけど」  クッと笑って、玲央がオレを斜めに見つめる。  少し高いところから、ふ、と笑む玲央の瞳は。ほんとにカッコよくて。  なんか、すとん、と胸にハートの矢が刺さる気分。  ……毎回そんな感じ。心臓がハートの矢だらけになりそうだなあ、なんて、変なイメージをしていたら、玲央がまたクスクス笑った。 「あ、うん。当たり前なんだけど……玲央が、来てくれて、笑ってくれるからさ」 「ん」 「待ってるの、楽しい」 「――――……そんな、好き? オレのこと」 「うん。大好き」  結構な雨で、皆、傘さしてて、雨の音も大きいし。  誰も聞いてないよなーと思って、普通にそう答える。と。  玲央は、んー、と少し口を噤んで。  それから、苦笑いを浮かべた。 「そんな、素直に、大好きとか言われるとさ」 「うん?」 「……可愛がりたくてしょうがなくなるんだけど?」  何だかすごく、色っぽい目で見られてしまうと。  どき、と胸が震える。  ハートの矢は刺さりまくるし、ドキドキしすぎだし。  忙しくて大変だなー、オレの心臓……。 「……か……」 「ん? か?」 「か……可愛がって、ください」  それ以外に言う言葉が見つからなくて、そう言ってみたら。  ぷ、と玲央が笑いながら、口元を押さえた。 「……何で笑うのー」 「だってまた敬語だし。可愛がってくださいって……」  オレと反対の方向いてるけど。クックッ、と笑ってるせいで、完全に揺れてる玲央の背中。  もしもし。そっち向いてても、分かりますよー。めちゃくちゃ笑ってるの。  ちょっと恥ずかしい……。変なこと言っちゃった。  顔が熱い。だってそんなに笑われちゃうと……やっぱり大分恥ずかしい。  むむむ、と、失言に困って、口を閉じてると。  まだ笑いながら、玲央がオレを覗き込む。 「……見ないで、恥ずかしいから」 「んー?」  クスクス笑う玲央。 「こっち向いて、優月」 「……」  ちょっと膨れたまま、玲央を見上げると。  傘ごと少し近寄られて、伸びてきた手に、ぷに、と頬に触れられる。 「可愛がりますよ。むちゃくちゃ。……ずっとな?」  そう言って、すり、と頬を撫でて、離される。 「…………っ」  かあああ、と赤くなる、オレの顔。  だって、しょうがないよね、もう。なんか、すっごい、優しく見つめられて、そんな風に言われて、頬の触り方もなんかもう、くすぐったくて、ぞくってしちゃうし!   もうもう。玲央ってばー!  自分がどれだけ魅力があって、心臓に良くないか、よく分かっててほしい。  もう心臓が、ドキドキ跳ね上がったまま、なかなか静かにならない。

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