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第713話◇

「あ……そうだ」  オレは、心臓のためにも、この恥ずかしい会話は終わりにしたかったので、ふと思い出したことを話すことにした。 「玲央がね、どう思うか聞きたいんだけどね?」 「ん? 何?」  クスクス笑いながら、首を傾げてくれる玲央に、オレは、渋滞が生まれそうって言われたことと、知らない人についてかないように、みたいに言われたことを話してみた。  そしたら、途中からふんわり笑んだままオレを見つめてた玲央は、オレが話し終えると、んー、と少し考えるそぶり。 「そうだなぁ……」  少し前を向けた視線を、またオレに戻して、目が合うと、ふんわり微笑む。 「渋滞を生みそうって言われるのもなんとなく分かるし……知らない人についてっちゃいそうだから気を付けて、っていう気持ちも、分かる」 「分かるの?」 「ん。そう言いたくなる気持ちは分かる。ふわふわしてる風に見えるしな」  ……そうなんだ。  てことは、玲央もだし、皆も、オレのイメージはそんな感じなのかぁ。  玲央のマンションについて、エントランスで、傘を畳む。 「でも、優月、見た感じよりしっかりしてるし、人見る目はあると思うよ」 「――――……」 「だから、渋滞うまないだろうと思うし、知らない人っつっても、変な奴にはついてかないって気がする」  わあ。  なんか。  なんとなく、嬉しい。 「……そう?」 「ん、そー思う」  クスクス笑う玲央と、エレベーターの前で、見つめ合う。 「そうだ。オレ、玲央と初対面でくっついてっちゃったもんね」 「――――……」 「見る目、あるよね」  ふふ、と笑ってしまうと。  玲央が面白そうに笑って。 「オレに関して、見る目あるかは、まだ分かんないんじゃねーの?」  そんな風に言いながら、頬に触れて、ぷに、と摘まむ。 「とんでもない奴だったら、ごめんな?」  ちょっとふざけて、目を細めて笑う玲央は、なんだかとっても可愛く見えて。……とんでもなくても何でもいいなあ、なんて思ってしまうけど。  エレベーターに乗り込んで、なんとなく少し黙っていたオレは、ふ、と玲央を見上げた。 「……ていうかね」 「うん?」  じっと見つめると、玲央は、クスッと優しく微笑む。 「玲央はとんでもない人……な気がする」 「……そう?」 「うん」  玲央の部屋の階について、部屋まで歩きながら、玲央がオレに視線を向ける。 「どういうとこが?」 「……なんか全部、普通の人じゃない、気がする」 「んー……そう?」 「うん」  ……普通、ではないよね。  カッコよすぎるし。……ていうか、顔、どうやればそんな感じになるの?とか思うし。脱いでもカッコよすぎるし。そういえば実際のところは全然知らないけど、お家も絶対すごそうだし。マンション二つ一人で使ってる大学生なんてそんな居ないよね? バンドだってめちゃくちゃすごいし、曲作ってる玲央もすごいし、歌ってるのもすごいし、ていうか、しゃべってるだけでこんなに華がある人、見たことないし。  …………はて? 何でオレは、ここにいるんだろうか? 「……何考えてんの?」  鍵を開けながら笑う玲央の視線に、全部心の中で喋り倒してたことにはっと気づいて、オレは玲央を見上げた。 「……玲央って……なんか色々すごくて」 「ん?」  ドアを開けてくれるので、ありがと、と中に入る。傘を置いて、部屋にあがると玲央を振り返った。 「玲央って、なんか、全部普通じゃないくらいすごいなぁって……そういう意味ではとんでもないかもって、思って。あれオレ、どしてここにいるんだっけ、とまたちょっと思っちゃってた」 「――――……ふーん?」  ふ、と口角だけあげて微笑する感じ。  ……綺麗な笑い方。そんなのも、特別な気がして、見惚れてしまうと。  腕を掴まれて、とん、と壁に押し付けられた。 「?」 「……でもオレ、すげー普通だと思うけど」 「……どこが??」  どこが普通なんだろう、玲央って。  普通なとこ……。 「そんなきょとんとする?」  玲央は苦笑いしつつ、オレの顎に触れる。 「好きな奴に、いーっつも触りたいとか、キスしたいとか思うとこは」 「――――……」 「普通の男、だろ」  最後の方は、唇が触れそうなところで言いながら。言い終えると同時に、キスされた。 「――――……」  ……普通の男って。  …………カッコよすぎて、全然普通の男じゃないのだけれど。  はっ。  ていうか、玲央って、いっつも触りたいとか、キスしたいとか、思ってくれてるってこと??   キスが離れたら聞いてみよう。  と思うのだけれど。 「……ん、ン」  全然離れてくれなくて。  一生懸命上向いて、玲央のキスに応えてる間に、どんどん何も考えられなくなっていく。 「……ん、ん……ふ ……」  なんだか好きすぎて。  玲央の背に回した腕で、きゅ、としがみつくと。  ますますキスが、深くなる。      

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