715 / 856
第713話◇
「あ……そうだ」
オレは、心臓のためにも、この恥ずかしい会話は終わりにしたかったので、ふと思い出したことを話すことにした。
「玲央がね、どう思うか聞きたいんだけどね?」
「ん? 何?」
クスクス笑いながら、首を傾げてくれる玲央に、オレは、渋滞が生まれそうって言われたことと、知らない人についてかないように、みたいに言われたことを話してみた。
そしたら、途中からふんわり笑んだままオレを見つめてた玲央は、オレが話し終えると、んー、と少し考えるそぶり。
「そうだなぁ……」
少し前を向けた視線を、またオレに戻して、目が合うと、ふんわり微笑む。
「渋滞を生みそうって言われるのもなんとなく分かるし……知らない人についてっちゃいそうだから気を付けて、っていう気持ちも、分かる」
「分かるの?」
「ん。そう言いたくなる気持ちは分かる。ふわふわしてる風に見えるしな」
……そうなんだ。
てことは、玲央もだし、皆も、オレのイメージはそんな感じなのかぁ。
玲央のマンションについて、エントランスで、傘を畳む。
「でも、優月、見た感じよりしっかりしてるし、人見る目はあると思うよ」
「――――……」
「だから、渋滞うまないだろうと思うし、知らない人っつっても、変な奴にはついてかないって気がする」
わあ。
なんか。
なんとなく、嬉しい。
「……そう?」
「ん、そー思う」
クスクス笑う玲央と、エレベーターの前で、見つめ合う。
「そうだ。オレ、玲央と初対面でくっついてっちゃったもんね」
「――――……」
「見る目、あるよね」
ふふ、と笑ってしまうと。
玲央が面白そうに笑って。
「オレに関して、見る目あるかは、まだ分かんないんじゃねーの?」
そんな風に言いながら、頬に触れて、ぷに、と摘まむ。
「とんでもない奴だったら、ごめんな?」
ちょっとふざけて、目を細めて笑う玲央は、なんだかとっても可愛く見えて。……とんでもなくても何でもいいなあ、なんて思ってしまうけど。
エレベーターに乗り込んで、なんとなく少し黙っていたオレは、ふ、と玲央を見上げた。
「……ていうかね」
「うん?」
じっと見つめると、玲央は、クスッと優しく微笑む。
「玲央はとんでもない人……な気がする」
「……そう?」
「うん」
玲央の部屋の階について、部屋まで歩きながら、玲央がオレに視線を向ける。
「どういうとこが?」
「……なんか全部、普通の人じゃない、気がする」
「んー……そう?」
「うん」
……普通、ではないよね。
カッコよすぎるし。……ていうか、顔、どうやればそんな感じになるの?とか思うし。脱いでもカッコよすぎるし。そういえば実際のところは全然知らないけど、お家も絶対すごそうだし。マンション二つ一人で使ってる大学生なんてそんな居ないよね? バンドだってめちゃくちゃすごいし、曲作ってる玲央もすごいし、歌ってるのもすごいし、ていうか、しゃべってるだけでこんなに華がある人、見たことないし。
…………はて? 何でオレは、ここにいるんだろうか?
「……何考えてんの?」
鍵を開けながら笑う玲央の視線に、全部心の中で喋り倒してたことにはっと気づいて、オレは玲央を見上げた。
「……玲央って……なんか色々すごくて」
「ん?」
ドアを開けてくれるので、ありがと、と中に入る。傘を置いて、部屋にあがると玲央を振り返った。
「玲央って、なんか、全部普通じゃないくらいすごいなぁって……そういう意味ではとんでもないかもって、思って。あれオレ、どしてここにいるんだっけ、とまたちょっと思っちゃってた」
「――――……ふーん?」
ふ、と口角だけあげて微笑する感じ。
……綺麗な笑い方。そんなのも、特別な気がして、見惚れてしまうと。
腕を掴まれて、とん、と壁に押し付けられた。
「?」
「……でもオレ、すげー普通だと思うけど」
「……どこが??」
どこが普通なんだろう、玲央って。
普通なとこ……。
「そんなきょとんとする?」
玲央は苦笑いしつつ、オレの顎に触れる。
「好きな奴に、いーっつも触りたいとか、キスしたいとか思うとこは」
「――――……」
「普通の男、だろ」
最後の方は、唇が触れそうなところで言いながら。言い終えると同時に、キスされた。
「――――……」
……普通の男って。
…………カッコよすぎて、全然普通の男じゃないのだけれど。
はっ。
ていうか、玲央って、いっつも触りたいとか、キスしたいとか、思ってくれてるってこと??
キスが離れたら聞いてみよう。
と思うのだけれど。
「……ん、ン」
全然離れてくれなくて。
一生懸命上向いて、玲央のキスに応えてる間に、どんどん何も考えられなくなっていく。
「……ん、ん……ふ ……」
なんだか好きすぎて。
玲央の背に回した腕で、きゅ、としがみつくと。
ますますキスが、深くなる。
ともだちにシェアしよう!