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第715話◇
涙目で赤面してるのとかいろいろが落ち着いてから、玲央がオレをゆっくり離した。
「優月んち泊まる用意しよ。明日、車でそのまま大学行くから、学校の準備もしてな?」
「うん」
「行く途中で何か食べよ。食べたいものあるか考えといて」
うん、と頷いて、部屋に向かって歩き出しながら、ふと思った。
「玲央は食べたいものないの? いつも聞いてくれるから、玲央の好きなものでいいよ?」
「別にオレ、なんでもいいんだよな……」
「そうなの?」
「正直なとこさ」
「うん」
「体に必要なものは取ってたけど、三食ちゃんと食べてもなかったし。あんまりこれがいい、とかが今まで無かったかも。適当に通りがかりで入るとかが多かったし」
「そうなんだ」
……そこ行くと、オレ、人生、ほぼ三食絶対食べて生きてきたような……。
食べたいものいっぱいあったような……。
筋トレとか体づくりはしてる玲央だから、必要なもの、ていう言い方になるんだろうけど。逆にオレは、そっちが出来てないような。
「ん?」
「オレ、なんか好きなもの食べて生きてきたような……」
苦笑いで玲央を見上げると、玲央は、ぷ、と笑った。
「いいんじゃねえの、好きなもの食べてる優月、可愛いし」
伸びてきた手に、頭をクシャクシャ撫でられる。
「オレは優月が嬉しそうに食べてるのが好きだから、何食べたいか聞いてる」
「……オレ、そんなに嬉しそうに食べてる?」
「ん。食べてる」
クスクス笑いながら、ポンポン、と頭を軽く、撫でるように叩いて玲央の手が離れた。
「なんか、オレ、めちゃくちゃ食いしん坊みたいな気がしてくるね」
「ん? ……そんなことは言ってねーけど」
そこまで言って、玲央は、ぷ、と吹き出す。
「優月が幸せそうに食べてると、オレも嬉しいとか」
「――――……」
「そんなのは初めて思ったな」
クローゼットから服を出しながら、玲央が笑う。
「オレ、優月との間に、初めてのことがたくさんあるかも」
何で玲央は、そんなにオレに、初めてって言ってくれるのかなあ。
ほんとに嬉しくなっちゃうんだけど。
教科書を用意し終えたオレは、服を持ってる玲央に近寄って、すぐ近くから見上げた。
「ん?」
「……オレが初めてって、玲央、よく言うでしょ」
「まあ。そう、だな」
くす、と笑って、オレを見下ろす。
「オレも、玲央が初めてのこと、いっぱいあるよ」
「ん」
「あと……二回目でも、三回目でも、なんでも嬉しいんだけどね」
「ん?」
「なんか、玲央、オレとが初めてって言って、笑ってるくれるからさ」
少しだけ背伸びをして、玲央の頬に、ちゅ、とキスした。
「めちゃくちゃ嬉しい」
「――――……」
少しの間、ただ見つめ合って、玲央を見上げてると。
「――――……そういうのって、誘われてると思って、大丈夫?」
くす、と笑う玲央に、ぶに、と顎を掴まれて、引き寄せられる。
「……ち、ちが」
うわ、と思って、ぎゅーっと目を閉じると。
数秒して、何もされないので恐る恐る目を開けると、玲央の苦笑いが目の前に。
「これ、ここで始めたら、もうそこのベッドに絶対押し倒すから。無理」
クス、と笑ってそんなことを言うと、お返し、みたいな感じで頬にキスされて、顎を離された。そのまま、すり、と頬に触れて。
「もーほんと、優月って……もうちょっと気を付けないと、オレに至る所でドロドロにされるからなー?」
「――――……」
その言葉に、なんだか想像が追い付かないけど、なんとなく想像しかけて、もうその段階で、かぁっと血が上る。
「はいはい、早く用意して、寝室でようぜ。ここヤバいから。早く早く」
「…………っ」
ふざけた口調で言って、可笑しそうに笑う玲央。
もう絶対からかわれているのも分かるのに、顔は熱いし。
ちょっとキスしただけなのに、いっぱい遊ばれてしまった。
……好きだけど。
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