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第728話◇

 ぱちっと、目が開いた。なんだかすっきり。  見慣れた部屋。そうだ、自分ちだ。  やっぱりまだ、玲央の家より、この部屋の方が、見慣れてるんだ。起きた時に違和感がないや……。  そんな風に思いながら、そーっと、玲央の気配がする方を見ると。  珍しく、寝てる。  わー。  玲央の寝顔は、なんだかとってもお得な感じがする。  ……綺麗。  オレ今まで、人に対して「尊い」という言葉を使ったことが無かったのだけれど。  玲央を見ていると、いつもそれが浮かんでくる。  尊いって、玲央のためにある言葉じゃないかな……。    睫毛、長いんだよねー、玲央。  ……でもなんか、女の子みたいなんじゃなくて……ただ、綺麗。  横顔とか、ほんと、綺麗。  ……瞳伏せてても、カッコいいって何なんだろうか。  もうもう、スケッチブックを今ここに下さい。動けないので、誰か持ってきて。描きたい描きたい、ウズウズしてしまう。  もう覚えておいて、あとで描こう。  心に決めて、じーーーーっと、見つめ続ける。  眉毛がこんな感じで、鼻筋……と、閉じた瞼の形。長いまつ毛。  薄いけど、綺麗な唇。  尊い。  しかないなぁ、もう。  いいんだろうか、オレがこの寝顔を独り占めしていて。  何かすごい、この大幸運の代償を払う日が来るのでは? とか、なんか変なことまで考えてしまうほどに、一人で見てていいのかなと、思っちゃうよ。  いやでも、この寝顔、やっぱり誰にも見せたくないような……。  むむむ。オレってば、こんな独り占めしたい感覚、あったんだな。  どうしてこんなにカッコイイ人が居るのだろう。  じーーーー。  この瞳が、開いたら、オレをまっすぐに見てくれる。  ふ、と、瞳をゆるめて、少し細めて、口元がにっこりして。  その指が、オレの頬や、頭や、体に、触れる。  何か言うと、めちゃくちゃ、聞き心地の良い、ちょっと低い声が。  めちゃくちゃカッコよくて。  ずーっと声、聞いていたいなって思っちゃうし。  …………玲央。  じーー、と玲央を見つめる。  オレ、玲央が思ってるよりも、きっと何億倍も、  玲央のこと、好きだよ。  玲央が、生きててくれるだけで、嬉しいって思う。  そばに居たいけど。  もし玲央が、側に居てくれなくなっても。  多分、ずーーっと、好きだなーと思うくらい。  玲央のこと、好きなんだよ。  会ったばかりなのに。  もっともっと、長い時を過ごした大好きな人達、いっぱいいるけど、その人達のことは、玲央と同じようには好きじゃない。  何が違うのかは、分かんないけど。  触れたいって。愛してるって、思う。  嘘みたいなくらい、すごくすごく。  ……玲央のことが、好きだよ。  心の中で、なんだか朝からそんな告白をしながら、じー、と見つめ続けていたら。  ふ、と玲央が目を開けて、オレを見た。 「あれ……優月?」 「おはよ」 「起きてた?」 「うん。少し前に」 「……見てた?」 「見てた。カッコイイ、寝顔」 「――――……」  玲央はオレを見て、苦笑。 「変な顔してた?」 「してないよ~カッコいい」 「そう?」  クスクス笑う玲央。 「ていうか……半目開いてても、玲央はカッコいいと思うけど」 「それはなくないか?」  ますます苦笑する玲央。 「カッコいいよ」  ふふ、と笑ってると、ちゅ、と頬にキスされる。 「まあ優月も半目開いてても可愛いけど」 「……え、開いてたら、見ないでね」 「可愛いだろ」 「絶対嫌だからー見ないでね」  玲央はカッコいいけど、オレはやだ。と思っていたら。  すぽ、と抱き締められた。 「どんなんでも可愛いと思うから平気」  寝起きの玲央は、ちょっと体温が高い。  あったかい。  ふふ、と笑った。  

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