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第730話◇

 春さんと待ちあわせた正門。 「優月くん、ごめんね」 「あ、春さん。こんにちは」  いつも通りの笑顔の春さん。特別困ったこととか、そんなんじゃなさそう。何だろう? 「オレどこでもいいんですけど……どこ行きますか? 学食で話せますか?」 「オレはいいんだけど……あーでも、あっちに、喫茶店あるから、そっち行こっか。奢るから」 「良いですよ、奢りじゃなくて。むしろメロンのお礼します」 「オレが誘ったし」  そんな会話をしながら、喫茶店に向かう。  大学の人達も結構来るここは、音楽が流れてて、いい雰囲気。隣と少し離れるから、話をするはちょうどいいと思う。オレは食堂に行くことが多いからあんまり来ないけど、女の子とかは、時間を潰す時に結構利用してるみたい。 「優月くんは、ここ、来たことある?」 「前に何回か……」 「そっか。とりあえず食事、頼んじゃおう」 「はい」  メニューを見て、サンドイッチとコーヒーを頼んで、お水を一口。  春さんがオレを見つめて、「ごめんね、急に」と笑った。 「全然いいです。でも、どうしたんですか?」  何だか神妙な顔をしている春さんを見つめると。 「オレ、昨日飲み会だったんだけどさ」 「はい」 「……神月玲央くんがたまたま話題にあがって」 「玲央? ですか……??」  不意に上がった玲央の名前に首を傾げた。 「優月くんって、彼のこと知ってはいるんだろうけど……」 「えーと……はい、知って、る……と思うんですけど」 「でももしかして、あんまり知らなかったりもするんじゃないかなって思って」  あ。  なるほど……。  玲央の今までの色んな噂、聞いちゃったのかな?  それで、心配して……。 「昨日も一緒だったし、また今日は玲央くんの家なのかなとも思って、だとしたら、学校に居る間しか話せないかなと思ったんだよね」 「あ、なるほど、です。急にどうしたんだろうって思ったので……」  クス、と笑ってしまう、と、春さんはじっとオレを見つめた。 「優月くんが、一緒に暮らそうって思ったんなら、大丈夫なのかなとは思ったんだけど、一回聞いておこうと思って」 「はい」 「玲央くんの噂とか、色々知ってる?」 「……えーと……多分」  頷いてみせると、春さんはとても複雑そうな顔をした。 「言いにくいんだけど……男も対象らしくて、相手も不特定多数というか……恋人は居ないみたいだから、自由ではあると思うんだけど」  春さんの目を見つめながら、うんうん、と頷く。  ああ、なんだか分かってきた。 「優月くんは、ノーマルだったよね?」  ……やっぱり。そこらへんかなと、思った。  覚えてる。いつか、可愛い女の子と、可愛い子供たちに囲まれて暮らしたいなあとか、ぼんやりな将来の夢の話なんかを、春さんとしたのも。 「友達として一緒に暮らすにしても……うーん、どうなんだろって思って。ごめんね、要らない心配かもしれないけど、一応話したくて」 「……えっと……春さん、あの」 「うん」 「……ありがとうございます、心配、してくれて」 「心配するよ、優月くんは、なんか弟みたいに思ってるし」 「うん。オレも。お兄さんみたいに思ってます」  優しい言葉に、ふ、と笑んでしまう。 「……だから、正直に、言いますね」 「うん?」  春さんが少し不思議そう。 「あの……友達として、じゃなくて……付き合ってる、んです」 「え?」 「……付き合ってるから、一緒に暮らそうって言ってて」 「……ん?」  わりとすごくはっきりと言ってると思うのだけど、春さんの中に、その考えはないみたいで。  なんだかものすごく不思議そうに、オレを見てくる。  どう言ったらいいんだろ??  思わず苦笑い。

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