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第731話◇
「付き合ってるって?」
「……あの、春さん、玲央とオレ」
手招きして、近づいて、こっそりと「恋人、なんです」と言ってみた。
春さんはオレから耳を離して、びっくりした顔でオレを見つめる。
「え?」
それきり、まじまじオレを見て、全然動かない。
「えーと……優月くん、て……」
「春さんと話した時は結婚とか、そういうの話してたと思うんですけど……オレもびっくりではあるんですけど……玲央のことが好き、になっちゃって……色々あって、今、付き合ってて」
オレが話してるのを、すごく真剣な顔で見つめてる春さん。
「優月くん、本気で言ってる?」
「こんなので春さんに冗談言わないです」
「そう、だよね。優月くんだもんね……え、じゃあ、本気で??」
「はい」
こくこくこく。頷くと。
春さんはしばし無言の後、一口、水を飲んだ。
「……そうなると、余計心配なんだけど」
「あ……」
そっか。春さんの、玲央の噂、多分ちょっと古いんだ……。
って言っても、ほんと最近の変化だと思うから、玲央の噂はまだまだ更新されてないんだな……。
てなると、恋人だから大丈夫ですって言ったオレの今のセリフは、逆効果なんだ……。
うーん。これは、本当に、どうしたらいいんだろう。
心の中で、心底困ってじたばたしてる自分の図が見えてしまった。
「……ちょっと整理して良い?」
「はい」
「恋人なのは確実?」
「はい」
「その……セフレ、とかじゃなくて。……というか、優月くん、セフレって知ってる?」
春さんの心配そうな質問に、なんだかもう、どうしようかなと思って、崩れそうになる。
「あの、知ってます。……玲央に、そういう人達が居たのも、知ってます」
「あ、そうなんだね……えーと。優月くんは、その……」
ああ、めちゃくちゃ言い淀んでるのが、分かる。何を言いたいかも。
オレに、セフレの一人ではないの? って聞きたいんだろうけど、多分、それは失礼すぎると思うから、聞けないでいるんだろうなと……。
うう。どれだけ気を使わせてるのか、えーと、これは、どうしたらいいんだろう。めちゃくちゃ心配されてるけど。ああでも、玲央の噂、何を聞いたんだろう。あんまりいい噂じゃないのは、もうこの感じで、確信してるけど。
……美咲が聞いてたのとかと、同じ感じかなあ。
「あの春さん」
「ん?」
「あの、オレ、セフレではなくて……ちゃんと、恋人に、してもらってて」
「あ、うん」
春さんが、そっか、と呟いている。
「玲央、いま、セフレはもう全部別れてくれてて、オレと、居てくれてて」
と、一応頑張って、言ってはみたものの。
……なんか。すごく。
多分、絶対、安心はしてくれないだろうなと、言ってる自分すら、思ってしまう。
どうしてオレ今、ほんとのことを話してるのに、こんなに嘘っぽいというか、精一杯頑張って、繕ってるみたいな話し方になってしまってるんだろう。
分かってもらおうとすればするほど、なんだか、違う感じに聞こえてしまいそうな……。
ど、どうしよう、玲央~……。
なんて言えば~……??
居ない玲央に、心の中で助けを求めてしまう。
(22023/9/14)
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