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第740話◇

「優月、夕飯は? 食べたいものある?」 「んー……お腹は空いてるんだけど」 「昼は何食べた?」 「カフェのサンドイッチ。可愛い感じで少なかったの」 「あぁ、なるほど」  カフェで話してたのか、と思いながら。 「どこのカフェ?」 「正門の方から少し歩いたところにあって……駐車場の方のカフェじゃないよ。玲央は? 何食べた?」 「んーなんだっけ……」 「あっ食べたもの忘れちゃうのヤバいよ、玲央さん」  クスクス笑いながら優月が悪戯っぽく言ってくる。 「えーと……ああ、思いだした。エビフライ定食」 「エビフライ、いいね。好き」 「なんか今日のは二十食限定とか書いてあって。勇紀にノせられて食べた」 「え、なにか特別なの?」 「さあ? すこし大きかったような?」 「そうなんだ」  優月は、面白そうにクスクス笑う。 「じゃあ何か……お肉かお魚にする?」 「作る?」 「うん、早いし、作ろ?」 「ん。どっちがいい? 新鮮な魚売ってる店、行く? 少し遠回りだけど」 「美味しそう。そんなとこあるんだ! お刺身もある?」 「刺身も売ってる。手巻き寿司とかする?」 「うんうん。わぁ夕飯が豪華になった」  そんな風に言って、何やらキラキラした笑顔で喜んでいるので、オレも、微笑んでしまう。 「手巻き寿司って豪華?」 「うん、なんか……パーティーっぽい時にうちはよくやったから。豪華なイメージ」  そう言ってから、優月は、うーんと考える。 「でもまあ、海苔にごはんのっけて、お刺身巻くだけなんだけどね。なんか豪華って思っちゃう」  そう言ってから、あ、そうだ、と思い出しながら。 「なんか、ひな祭りとか子供の日とかによくやってた気がする。オレ達が巻いて喜んでただけかも。豪華っていうか、楽しかったイメージかな」  クスクス笑う優月。  優月と一樹と樹里が、楽しそうに色んなのを巻きながら食べてる姿が、容易に想像できて、笑ってしまう。  すごく楽しそうにしてそうで、そんな姿を見るなら、お母さんもそりゃよくやるんじゃないのかなと、良く分からないお母さん目線で、想像してしまった自分がちょっと可笑しい。 「じゃあ決まり、な」 「うん」  嬉しそう。  その顔についつい。 「今度、二人呼んで、手巻き寿司パーティやろ」  と言ってしまった。でも、言ってからふと。……何だそれ。手巻き寿司パーティって。  自分の中から勝手に出てきた言葉に、自分でちょっとびっくりしていたら。  優月が、キラキラした顔でオレを見上げてきてる気配。 「いいの?」  いいのって、オレが言ったんだからいいには決まってるが、つか、オレ、ほんと手巻き寿司パーティって何、と思いながらも。  嬉しそうにオレの返事を待ってる優月を一瞬見て、また前に視線を戻しながら、「いいよ」と答えると「嬉しい」と笑う優月。 「なんかさ」 「ん?」 「玲央がね、クロとかうちの子達とかに優しい顔すると、もう死にそうに好きって思っちゃう……」  何やらちょっと困った顔でそんな風に言うのが可愛すぎる。  もともと猫も犬も、子供も嫌いじゃないけど。  なんだか自分でも不思議なくらい優しい気持ちになったり、自分でも不思議なことを、ぽろっと言ってしまったりするのは、絶対優月と居るからな気がする。  別に嘘をついてるとか無理してるとかではなくて。  ――――……ただ、優しい気持ちになってる、て感じ。

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