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第743話◇
綺麗に並べた刺身と、酢飯と海苔とをテーブルに並べて、二人で座る。
「いただきます」
そう言って、海苔にご飯と刺身、くるくる巻いて、優月が嬉しそう。
「なんかもう子供じゃないけど……」
「ん?」
「やっぱり手巻きは嬉しい食べ物みたい」
そんな風に言って、嬉しそうなの、ほんと可愛いなと思う。オレだとなんとも思わずに普通に過ごしてしまいそうなことを、嬉しいって幸せそうにしてんのが新鮮すぎて、可愛いし。
なんとなく、優月がずっとこんな風に生きていけたらいいなと思う。で、その側に居られたら。多分、優月が居ない未来より、オレは幸せな気がする。
「なら良かった」
つか、なんかオレ、今、また歌詞につながりそうなこと考えてたな、と思って、笑ってしまいながら答えると、優月がオレをじっと見つめる。
「玲央は手巻き寿司、してこなかった?」
「だな。刺身で食べるか、店で食べるか……食べたことはあるよ」
「そうなんだ」
「お好み焼き食べてないのと、同じ理由かも」
そんな風に皆で囲むような食卓ではなかったし、と思ってると。
優月は、ふふ、と笑う。
「ん?」
「玲央が、手巻き寿司パーティする? って聞いてくれたのが、なんか嬉しかった」
ああ、それね。と、苦笑が浮かんでしまう。
優月は、パーティーっぽい時に、手巻き寿司を食べたって言ってただけで。別に「手巻き寿司パーティー」をしたって言ってた訳じゃなかったのに。
確かに。自分でも何言ってんだとは思ったんだよな。
「なんか勝手に口から出た」
「ふふ」
うんうん、と頷いて、優月は笑う。
「ねね、玲央、お店の手巻き寿司ってさ、すごく綺麗だよね」
「そうかもな」
「双子たちとさ、誰が綺麗な手巻き寿司を作れるか大会をしてたんだけどさ」
「何それ」
「え」
聞いた瞬間、ぷ、と笑ってしまうと、優月は「変だった?」と照れ笑いを浮かべている。
「いや、面白いからいいけど」
「面白いって言われてる……」
優月もクスクス笑いながら、オレを見つめてくる。
「父さんと母さんにね、皆で作ってあげるの。で、どうぞってして、誰が上手に綺麗に巻けたか判定してもらうんだよね」
「誰が勝つの?」
「樹里かなあ。なんかオレと一樹はいい勝負というか……」
むー、と優月が口をとがらせているのが、可愛いなとか思いつつ。
話を聞きながら、海苔にご飯をのせて、綺麗にか、と考えてみる。
「なんか、お店のを思い出しながら、形とかは綺麗にするんだけど、なんでか違うんだよね。ああいう風に、綺麗にはならなくて。美味しいからいいんだけど」
「形っていうか、色を考えてみれば?」
「色?」
「優月、得意そうじゃん、色使いとか」
「そっか、色かぁ」
んー、と刺身を見て、優月が考えてる。
「そっか。さっきお刺身置いた時と一緒かな。緑のものと、赤とか白とか巻けばいいのかな」
「かもな。店のってどんなだっけなぁ」
あんまり綺麗とか考えずに食べてたな、と笑いながら、シソの葉とサーモンをのせて、いくらを少しのせてみる。
「こんなふうなのは? 丼とかにこんな感じでのってるよな?」
「ん?」
オレの手元を見た優月は、見た瞬間、目を大きくしてキラキラ笑顔で嬉しそうな顔になる。
「すっごくイイ~綺麗」
「ん」
「そっか、シソとか巻いてあるかもね、お店の。ていうか、いくらが可愛い、それ」
「まあこれ、なんかこういう感じの見たことあるって感じだけど」
「んー、美味しそう」
じっと見つめられるので、ふ、と笑ってしまいながら、少しだけ醤油をつけて、優月の口元へ。
「ん」
ぱく、と嬉しそうに食いついて、モグモグしてるのが。
……ああ、も、可愛いよな。
つか、「誰が綺麗な手巻きずしを作れるか大会」ってなんだ? とも思って笑ってしまったのだけれど。優月と双子たちが楽しそうに巻いてる姿が容易に想像できると、なんかもう、全員可愛い。
「オレ、次の大会出たら、勝つかも。お刺身も上手に並べられそうだし。今度帰る時、手巻き寿司にしてもらおうっと」
そんな事を言いながら、残りの手巻き寿司をオレの手から、ぱく、と食べる。
次の大会って何、と笑ってしまいながらも。
「じゃあその大会、オレも出ようかな」
クスクス笑いながらそう言ったら、「玲央はダメ」と断られる。
「なんで?」
「えー、なんか負けちゃいそうだから」
ふふ、と笑って、優月はオレを見つめる。
「嘘。……ていうか、うちの大会、出てくれる気あるの?」
「あるけど?」
「そっちが嬉しい」
心底嬉しそうに笑う優月に、こっちのが嬉しいけど、と思いつつ。
ちゅ、と頬にキスすると、また優月の瞳が、めちゃくちゃ緩む。
つーか何してても可愛い。
オレ、変になってる? ……ま、いっか。
(2023/10/17)
※次、1ページだけ、番外編「金木犀」です。
後書き。
うわ、17日もあいてました👀
お久しぶりです。ぶろぐでつぶやいてますが、戻ります♡
またよろしくです。
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