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第746話◇

 テーブルの上を片付けて、半分くらいまで洗い終えたところでオレは、隣で水で流している優月に目を向けた。気付いて「ん?」と優月が見上げてくる。 「優月、シャワー先に浴びておいで」  そう言うと「え、いいの?」と優月が首を傾げる。 「オレ片付けておくから、優月は先にシャワー浴びて、出たらコーヒー淹れといて」 「ん、分かった……一緒に入らないの?」  そんな風に聞いてくる優月が可愛いのだけれど。 「一緒に入ったら触る自信があるからやめとこうと思ったんだよな」 「触る自信……」  優月がパチパチと瞬きを繰り返してから、恥ずかしそうな顔で、ん、と頷いた。 「分かった、じゃ、先に入ってくるね?」 「ん。そーして」  優月は水道を止めて、タオルで手を拭きながら、ふと、オレをまた見上げた。 「……あの……」 「ん?」  じっと見つめて、少し首を傾げながらオレを見つめる。 「オレ別に……触られるのやじゃないよ?」 「ん?」  ああ、なんか、勘違いしてるな。 「違うよ。優月が嫌がってるとか思ってない。最短ルートで色々こなしてから、ベッドでゆっくりがいいなー、と思ってるだけ」 「…………」  少しその言葉の意味を考えた後。  優月は、少し赤くなって、頷くと、分かったーと言って離れていった。  ああいうので赤くなるのが。可愛い。  ……明日が無ければ絶対一緒に入るんだけど。昨日も一緒に入れなかったし。  そんなことを思いながら片付け終えて、スマホを手に取った。 『久達が昼前に来るから。昼用意しておく』  じいちゃんからのメッセージ。了解、と返しておく。  なんか好きそうな和菓子でも買ってくとして……昼に着くなら、やっぱ十時過ぎには出ないとだから、そんなゆっくりはできないか。まあ、学校の一限行くよりはマシだけど。  朝少し、ベットでゆっくりするのもありだな。なんて思っていたら。 『なあなあ玲央、明日希生さんち行くんだろ?』  と勇紀から入ってきていた。 「優月つれて行ってくる」 『まあ大丈夫だとは思うけど、ちゃんと守ってあげろよなー』 「じいちゃん、優月を気に入ってるから平気だと思う」 『まあ頑張れー』  つか、頑張れって何をだ。守ってあげるって言ってもな。……勇紀も過保護だな。  なんだか苦笑しながらOKと入れてスマホをテーブルに置く。風呂に入る準備をしてリビングに戻ると優月が出てきた。長袖Tシャツの部屋着で、まだ髪は濡れてる。 「玲央、片付け、ありがとね」 「いいよ。すぐ終わったし」  近づいて、優月が持ってたタオルで髪を拭いてやり、そのまま両頬を挟んで引き寄せる。 「可愛い」  風呂上りって、ほんと可愛い。……いや、いつも可愛いか。  勇紀たちには絶対聞かせたくないことを自然と思いながら、ちゅ、と頬にキスすると、ふ、と優月が微笑む。  ……ほんと、可愛い。 「髪、乾かせる?」  そう聞くと、乾かせるよ、と笑う優月。 「赤ちゃんだと思ってる?」 「思ってはないけど」  クスクス笑って見つめ合うと、なんだかこの空気が、好きすぎて。 「優月――――」  まっすぐ見つめる。 「ん?」  にこ、と笑う優月。 「オレ、今、こうしてんの、嘘みてーに幸せなんだけど。知ってる?」  そう言うと、優月は、大きな瞳をぱちくりさせた後、ふわ、と微笑んだ。 「知ってる……」  暖かい手がオレの頬に触れて、少し背伸びをした優月が、オレにキスをした。 「おなじこと思うから。知ってる」  めちゃくちゃ瞳をふにゃ、と細めて、笑う。 「――――……」  ……あー。可愛い。  だめだ。これ。  オレの可愛いは、抱きたいに直結しすぎなんだよな。  多分優月のは、そっちに直結しないで、笑い方が天使みたいなんだけど。  あーなんかもう。 「……シャワー浴びてくる」 「うん」  にこ、と笑って頷く優月。 「コーヒー、淹れて待ってるね」 「ん」  頷いて、なんとか優月から離れる。  清いのに、煽られるって何でだ。  全然わかんねーなぁ。  苦笑してしまいながら。でもなんだか幸せな気分で、バスルームに向かった。

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