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第748話◇

「これ、ほんと可愛い」  優月が笑い始めた頃の写真を指差してしまう。  丸くて、ぷにぷに柔らかそうなほっぺで、産毛で、手がすげーもちもち。グローブみたい?  「手、むにむにしたグローブみたいだな?」 「言わないで」  言いながら、オレもそう思う、と優月が笑う。クリームパンみたいでもある? と笑うので、ある、と頷いて、クスクス笑い合う。 「優月のご両親さ、絶対もう、可愛くてしょうがなかっただろうな」 「んーそうみたいだね、なんか言ってた気がする」 「なんて?」 「うーん、なんか、泣いてても笑ってても、何してても可愛かったって」 「分かる」 「分かっちゃう?」 「うん、分かる」  頷きながら、写真の中の優月が少しずつ大きくなっていくのを見ていく。 「ていうか、今の優月も何してても可愛いけどな」  ふと思ってそう言うと、え、とオレを覗き込んでくる優月。 「うーん……玲央の評価ってもう優しすぎるよね。何してても可愛いってことはないと思う……」  ふふ、と笑いながら、「でも嬉しいけど」と付け加える優月に、「オレ本気で言ってるけど」と言うと、もう一度、まじまじと見つめられる。 「これは……ありがとうって言えばいい?」  笑って聞いてくる優月に。 「お礼に、キスしてくれればいいかな」 「――――」  笑いながら言うと、くりくりした瞳をオレに向けて、それからふ、と顔を寄せてきたと思ったら。ちゅ、と頬にキスされた。 「――――」  頬にキスか。まあ、そうだろうと思ったけど。  そう思いながら、優月の頬にすりと触れて手を離す。 「玲央、コーヒー飲む?」 「ん、ああ」  頷いて、アルバムを腿の上から少し避けると、優月がローテーブルから二つマグカップを持って、オレに一つ渡してくれる。  コーヒーを飲みながら、隣に置いた今開いたばかりのページにふと目をやったら。 「あ。この人ってもしかして、優月のお父さん?」 「ん、どれ……あ、そうそう、父さん。父さんて写真撮る人だったから、あんまり写ってないんだよね」  クスクス笑いながら言う優月。 「優月に似てるな。優しそうな感じする」 「優しいね」  ふふ、と優月が笑う。 「あんまり怒られたことないかも。心配はしてくれる。怒るのは、母さんの仕事みたい」 「そうなんだな。まあ、優月たち皆、いい子に育ってるからそれで正解」 「あは。いい子って、ありがとう。玲央もいい子に育ってるよ?」 「そうか?」 「うん」  ニコニコの笑顔で頷かれるけれど。  その内、笑いがこみあげてきた。 「オレをいい子とか言っちゃうのは優月くらいかもな」  そう言うと、「そんなことないと思うんだけど」と優月は言う。  オレの過去とか、色々知ってるのに、いい子とか、普通に。多分本気で言ってくる優月に、苦笑が浮かぶのだけれど。  ほんと。  可愛いと言われ続けると、自分を可愛いって思える子になるっていうけど。  優月と居ると、「いい子」だったり「優しい奴」になれそうな気がしてくる。  

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