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第749話◇
コーヒーを飲み終えてテーブルにマグカップを戻す。
「優月」
「ん?」
優月のウエストに手を回して、自分の脚の間に座らせると、寄りかからせた。すっぽり後ろから抱き締めて密着。顎に、優月の髪がサラサラ触れて、気持ちいい。
「優月アルバム持って」
「うん」
ふふ、と笑って、優月がアルバムを腿に載せた。
アルバムが見えるように、少し体をずらす。
「……これ何してんの?」
一歳くらいかな。めちゃくちゃ一生懸命、両手を挙げてる優月。
「返事してるとこかな。優月ーて呼ぶと、はーいって両手あげてたって聞いたことあるから、多分それ……?」
「はは。超かわいい」
「ありがと」
苦笑いしながら、優月がそう言う。
「もうここにくると完全に優月だな」
「そう?」
「今より、まぁるいだけって感じ」
「あはは。そうかもー」
可笑しそうに笑って、オレを振り返る。
オレの頬に、すり、と肌が触れると。なんだかそれだけで愛しい。
「なんかオレ、この中に入って、優月育てたい」
「え?」
「めちゃくちゃ可愛い。抱き上げたい」
「んー……」
クスクス笑いながら、優月がオレを見上げた。
「無理だから、今のオレをぎゅってしてくれていいよー?」
ふふ、と目を細めて、優月が笑う。
「なんて言っちゃったりして」
あは、と照れ笑いの優月を、後ろからぎゅっと抱き締める。
「……玲央」
もそもそ動いて、オレと向かい合わせになると、優月は、きゅ、と抱きついてきた。なんとなくオレの上に乗ってる感じ。
「玲央、重くない?」
「ないよ」
「――――……ん」
ぎゅと抱き付かれる。
「玲央みたいな人と、オレの赤ちゃんの頃のアルバム見るとかさ」
「ん?」
「不思議」
「そう?」
「うん」
「……つか、オレみたいな人って?」
そう聞くと、優月はオレの腕の中から、むく、と起き上がって、じっと顔を見つめてくる。
「……んー。見たまんま。玲央みたいな人」
「なんだそれ?」
「こんな感じの人が、オレのちっちゃい頃を見たいって言うなんて、きっと、誰も思わないと思う」
「――――……」
ふふ、と笑われてそう言われて、そうかな? と少し考える。
確かに。優月に会う前の自分だったら、そうかもしれないか。
ていうか、優月以外の誰かの小さい頃を見たいとか、思いつきもしないかもしれない。
優月が、オレがいつからカッコいいか見たいなんて言い出してアルバムを見たがって。そしたらオレも、優月、絶対可愛かっただろうなあなんて思って、超ノリノリで、わざわざ優月のマンションにアルバムを取りに行くとか。
むしろ優月がオレのアルバムを見たいって言った時より、オレの方が絶対内心楽しみだった気すらする。
……確かに前なら、してねえな。
ていうか、優月以外に、そこまでの興味を持ったことがないというか。
今こうして一緒にアルバム見てても、可愛くてたまんないし。でもこんなの、よくよく考えれば、オレっぽくはない。
そう思うと、優月が言ってることも分かる。
「……確かにオレ、人のアルバム見たいなんて言う奴じゃなかったかも」
「ん」
クスクス笑って、優月が頷く。
「でも今はオレ、ほんとに見たいんだよな。この先も、今になるまで全部見てみたい。優月がどんな感じでここまで生きてきてんのか」
「――――……」
「なんかこう言うと、すげえ執着してるみたいだな……怖い?」
苦笑いで、黙ってしまった優月を見つめると、優月はふっと笑って、首を傾げた。
「怖くないよ。ていうか、怖い訳ないし。ていうか……嬉しい」
にこ、と笑って、むぎゅ、と抱きついてくる。
「オレも、思うから。勇紀たちみたいに、玲央の近くに居てみたかったなあって。昔のこと、いっぱい知ってていいなあって」
「――――……」
「でもなんとなく思うんだけど……昔会ってたら、こうなってなかったかもって思うから。あの時、あそこで会ったのが良かったかな」
昔会ったら、か。
……確かに、どうなってたか分かんねえな。
色んな事に疲れたり嫌気がさしてた少し前に会って、なんかそこらへん全部一瞬で吹き飛ばしてくれた優月が、可愛くてしょうがない気もする。
「前に会ってたら、もしかしたら仲良い友達にはなってたかもな」
「んー……どうかなあ、玲央のキラキラの仲間に入ってたかな?」
「キラキラの仲間……」
苦笑いが浮かぶ。
「でも、多分どこで会っても、優月のことは好きだっと思うけど……確かにあそこで会ったのは、こういう風になるには一番だったかもな」
「うん。……出会いとかって、タイミングだよね」
ふふ、と優月が嬉しそうに笑う。
確かに、と思いながら、なんとなく、きゅ、と抱き締める。
(2023/10/28)
アルファポリスさんの毎年恒例のBL大賞。エントリーが10/31までです。
何をエントリーするか考え中ですが、
とりあえず「恋なんかじゃない」はエントリーします✨
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