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第750話◇

 少し黙った優月が、ふと、「なんかね出会いも不思議だけど」と話し出した。 「やっぱり、玲央のおじいちゃんの家に行くっていうのも、不思議」 「だよな」  ふ、と見つめ合って笑ってしまう。 「でも玲央がオレの家に居たのも、双子たちと話してたのも、もう不思議を通り越してたけど」 「そう?」 「なんか夢だったのかなーと思っちゃうくらい」  あは、と笑って、オレを見つめる。 「玲央が居る空間じゃない気がしたから。もしかして、明日、オレが希生さんの家に入ったら、玲央もそういう感じに思うかな?」 「どうだろうな。……まあでも確かに、優月や蒼さんが居る空間じゃないかも」 「だよね」 「オレは、じいちゃんちにしょっちゅう入り浸ってたからなー」 「うん。ふふ、そうなんだ。……楽しみだなぁ」  優月がオレを見て、微笑んでしみじみ言う。 「屋敷にはさ、色んな大人がたくさん来て、色々世話されたり教わったりしてたけどな。なんか育児、みたいなのをしてたのはじいちゃんな気がする」 「そっか」 「親、不在が多かったから」  うんうん、と優月が頷く。 「――――優月んちみたいに、家族でどうのこうの、っていうのはあんまり記憶無いし」 「ん」 「……そう考えると、オレんちとお前の家は、大分違うよな」  多分、雰囲気自体が全然違うと思う。  ……ってオレは何を話したいんだか、と思わず首を傾げた時。 「前、お母さん、打ち上げ行きたいとか言ってたよね」 「ああ、ライブの時?」 「うん」 「たまに構いたくなるんだろうなって感じかも」  苦笑いで言うと、優月は、ふふ、と笑った。 「まだ玲央のお父さんやお母さんのことは分かんないけど……オレ、希生さん、好きだよ」 「ん?」 「まだ少ししか話してないけど、オレ達のこと、少しも否定もしなくて。玲央のことが大事なのも分かった」 「――――……」 「優しいよね」 「……口喧嘩、多いけどな」 「喧嘩っていっても、嫌いでしてるのじゃないよね。仲良さそう」  優月はクスクス笑う。 「希生さんも優しいし。玲央も優しい」 「……オレ、優しくできてる?」 「もちろん」  ふふ、と笑ってうんうん頷いている。 「玲央より優しい人、居ないと思ってるくらい、優しい」 「――――……」  それはないだろうけど、と思いながらも、嬉しそうに笑う優月の顔に、自然と口元が綻ぶ。 「オレが優月を好きだから、かもな?」  そう言うと、優月はオレをまっすぐに見つめた。 「――――……んーでもさ。好きな人に優しくするのだって難しいことだって思うよ? 玲央は、オレにも優しいけど、双子にも優しかったし、お店とかで会う店員さんとかにも、優しいし。友達といる時はまたちょっと違うけど、でも、皆玲央のこと大好きなの分かるし」 「――――……」 「だから、玲央は、別にオレを好きだから優しいんじゃなくて、元から優しいのだと思う……って前も言ったかな? オレ、いつもそう思ってるよ」  ふふー、とにっこり笑って、むぎゅ、と抱き付いてくる。 「……ほんと大好き」  すり、と頬に優月の髪の毛。  なんかほんと。愛しいんだよな。こういうとこ。  そんな大した奴じゃないけど。  優月の大好き、が今のままずっとあってほしいと思うと。  自然と、優月の好きなオレで居られたらいいなと思う。  でもなんか。  優月は、オレが無理しなくても。  ……そのまんまで居たら、好きって言ってくれそうな気もして。   「……オレ、優月が、オレと居てくれるなら、仏になれそう」 「え」  きょとんとした顔でオレを見て。  優月は、ぷぷ、と笑い出した。「笑うなよ」と言うと。「だって」とケタケタ笑ってる。  ふ、とまた微笑んでしまう。 「悟り開くの?」  笑いながら聞かれるので、もう、「ん」と頷くと、またクスクス笑う。 「じゃあオレも修行しよ」  優月は楽しそうに笑いながら、そう言った。     なにこの会話。  意味分かんね。と思いながらも。  なんか、ほっこり穏やかすぎて、笑える。

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