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第757話◇

「そ……うくん、あの……おはよ」 「はよ」  嫌々振り返ったオレを見て、ふ、と笑いながら近づいてくる。 「良かったなー、オレが迎えで」  笑みを含んだ声で、蒼くんが言うけど。  良かったんだろうか。  ……いや良くない。  希生さんじゃなくて良かったけど。いやでも蒼くん……。 「お前らって、いつもそんな甘々?」 「……っ」  ぼぼぼ。  どこから見てたんだろ。っても蒼くんが、黙って近づいてくるとは思わないから、多分、今キスしたとこで、見えるとこに来たって感じだと思うけど……。 「えーと……ここから中に入ったらしないです」 「別にしててもいいけど」  玲央が言った一言に、ぷ、と笑いながら、蒼くんが言う。 「気が済んだなら行こうぜ。済まないなら向こうで待っててやろうか?」  クスクス笑う蒼くんに、ぷるぷる首を振って、「行くってば……」と足を踏み出す。  玲央は、全然平気そうで、なんだかすごく面白そうにオレを見てるし。  蒼くんは、真っ赤になってるオレと、なんだかへっちゃらな感じの玲央を見比べて、とっても楽しそう。……に、見える。ちーん……。  しょっぱなから、やってしまった……。  ってオレがしたんじゃないけど。  なんで今キスされたんだっけ……。何か喋ってただけのような。  なんか可愛いって言ってくれてたけど。  蒼くんショックで、もはや何を話していたか、思い出せない。  玲央と蒼くんが並んで、何か話してるけど。  ちょっとなにも聞こえない……。はああと、息をつきながらふと周囲を見渡すと。  んん。なんか奥の方に、すごいでっかい池みたいなのが見える。 「玲央、あれって、池??」 「ん? ああ、そう。池」 「すっごいでっかいね」 「でっかーい鯉がいるぞ。見る?」 「えっ見ていい?? あっでも希生さんのとこ、先がいいかな」 「別に鯉見るくらい、いいんじゃねーの?」 「ちょっと寄ってきたら。二人には言っとく。見たいんだろ。玲央、荷物置いとく。貸せよ」  蒼くんが笑いながらそう言って、玲央からお土産の紙袋を受け取って、希生さんのお家の方に歩いていく。 「いいよ行こ」  玲央に言われて、一緒に池に向かって歩き出す。 「……うっわーーー、なにこれ、こんなでっかい鯉いるの?」 「うん。でかいよな、ここの鯉。なんか食われそうって思う」 「えっ玲央が?」 「餌とかやると、ほんと、しまいにはオレに食いついてくんじゃねえかと、子供の頃は思ってた」 「うわー そうなんだー」  ……ていうか、子供の頃の、玲央、可愛い。  そんなこと、思ってたんだ。ふふ。めちゃくちゃ可愛いんですけど。

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