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第758話◇

 玲央がちっちゃい頃、ここに立ってたんだー、なんて思いながら、池の近くに立つと。  餌をくれると勘違いしてるのか、遠くからも、どんどん、たくさんの鯉が、すーーー、と泳いできて、集まってくるのが見える。  オレの目の前は、もう鯉で渋滞してる。渋滞と言うか……密集?? 「ひ。ひゃーなにこれ、すごいんだけど」  思わず、一歩二歩、後ずさり。 「優月、なんか引いてる」  玲央が面白そうにクスクス笑ってる。  だって、と言いかけた時、何やら暴れん坊の鯉が、飛び跳ねた。  ひえ!  思った瞬間、水しぶきが腕に飛んできた。 「あんまり近くに居ると、水しぶき、めちゃくちゃすごいから、下がってた方がいいかも」 「先に言ってよー」  そう言うと、玲央が可笑しそうに笑う。  その時、後ろからかかってきた声。 「優月はまた、すごいことになってるね」  前ばかり見てて全然気付かなかった。  振り返ると、久先生が笑いながら立ってて、隣に蒼くん。 「あ、先生。こんにちは!」 「こんにちは。鯉に水掛けられた?」 「はい。なんかめちゃくちゃ跳ねて」 「すごいよね、元気で」  クスクス笑われる。少し後ろから、何かを持って、希生さんがやってきた。 「優月がはしゃいで鯉のところに行ったって、蒼が言うからね。餌をやらせてあげたらっていう話になって」  久先生がそう言って、笑いながら希生さんを見る。 「こんにちは、希生さん。あ。先に鯉のとこにお邪魔しちゃってすみません」  そう言うと、希生さんは、可笑しそうに笑う。 「こんにちは、優月くん。はい、餌ね。後で見せようと思ってたからいいよ。そんなに楽しそうにしてもらえると、嬉しいし」  そう言ってくれるので、お礼を言いながら餌を受け取っていると。 「じいちゃん、鯉自慢始まると長いから、気を付けて」  玲央が笑う。  鯉自慢? ってなんだろ。されたことないけど。鯉のお話??  思いつつ、餌をあげてると、ますます鯉がすごいことになってる。 「れおー」 「んー?」  鯉の跳ねるばちゃばちゃ音がすごくて、声が聞こえにくい。 「食べられそうって、分かるー」 「ああ……落ちんなよ?」  落ちたら食べられるってこと?  ……さすがにそれはないよね? ピラニアじゃないんだから。  と思いながらも、ものすごく激しくて、落ちたら怖いので、一歩引いたら、蒼くんに。 「お前、今マジでビビってるの?」  苦笑いで、ツッコまれた。  く。  ……だって、なんかほんと、とびかかられそうな勢いを感じるんだもん。 「あの金色の鯉、見える?」  希生さんが、オレの横で、少し遠くを指さす。 「あ、はい。金の鯉なんて初めて見たかも……」 「あれね、玲央が生まれた時に病院に行って、その帰りに買ってきたんだよ」 「えっそうなんですか?」 「いつ生まれたかは知らないけど、まだ稚魚から飼ったから、玲央と同じ年ってことにしてるんだ」 「わー。すごいー! 玲央の鯉なんですねー!」  それはすごいー!  なんか、尊く見えてくる。  玲央を見ると、玲央は、また言ってる……と、苦笑いをしてる。  玲央のあの様子だと、皆に話してるのかな。  でも話したくなるよねー。玲央の鯉! いいなぁ。

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