763 / 856

第760話◇

 希生さんが、何だかとても豪華な感じのドアを開けてくれて、中に入ると、広い玄関。うわぁ、と高い天井を見上げる。光がよく入るようになってて、すごく明るい。  んーと……? 何足、置けるかなあ、この玄関……なんて思いながら靴を脱いで、スリッパをはいた。    少し進んだところに、蒼くんの個展で希生さんが買った、空の写真。 「あ」  思わず笑顔になってしまうと、希生さんと蒼くんがオレを見るので、オレもまた見つめ返した。 「すごい。こんな広くて綺麗なところに飾られて――――すごく素敵、ですね」  白い壁に青空の写真。  本当に、素敵だな。そう思いながら言うと、蒼くんが笑った。 「オレもさっきそう思った」 「ん……」  うんうん、と頷く。  なんかこれを見れただけでも来れて良かった、なんて思ってしまった。  あっ、あと、玲央の鯉も……。あっあと、めちゃくちゃでっかい鯉たちも……。とかなんか色々思っていると、こっちだよ、と希生さんに言われる。 「あ、はい」  返事をした時、玲央がオレの隣に並んだ。 「なんとなくここに飾られてるかなーと思ってた」  言いながら写真を見上げてる玲央を、オレも見つめる。  ……微笑んでる玲央の顔が、綺麗に見えて。  すごく好き。  なんて思いながら。 「玲央」 「ん?」 「……オレ、なんかね?」 「うん」 「もう来て良かったなーって思ってる」 「……そうなのか?」  クスッと笑って、オレを見つめる。  ――――……白くて明るい空間で、蒼くんの青空の写真と並んで、玲央がオレの視界に入ってて。  いつでも玲央は、素敵だけど。  なんかますます、素敵で、尊いものを見てる気分。  なんだかすごく気恥ずかしくて、どう言ったらいいか良く分からないけど。  多分、今オレを見てくれているこの視線は、オレが好きって思ってるのも、なんとなく分かってくれてるような気がして、ふ、と笑って見つめ合う。 「玲央と一緒に育った鯉も見れたし、すっごく幸せ」  そう言うと、玲央も、そう? とクスクス笑う。 「一緒に育った訳じゃないけどな」  可笑しそうに笑いながら、玲央の手がオレの頭をポンポンと優しく撫でる。 「あ、優月、手洗うとこ、こっち」 「あ、うん」  玲央について洗面所へ。  ……ホテルみたい。  広々としてて明るい。鏡、めちゃくちゃ大きくて綺麗。手を洗って、ふかふかすぎなタオルで手を拭く。 「なんかこのお家」 「うん?」  玲央も手を洗いながら、鏡越しにオレを見る。 「全部明るくて、すごく綺麗」 「……まあ、そうだな」  くす、と笑われて、あれ、見たまんますぎたかなと思っていたら。 「居心地よくて好きだったから……優月も気に入ると嬉しいな。……ってまあ、ここはじーちゃんちであって、オレんちじゃないけど」  手を拭きながら、オレを見て笑う玲央に、あ、と突然納得。  玲央のマンションの部屋。  なんか似てるかも。  広くて明るくて。すごく、居心地がいい。自然とそういうのを選んだのかな?   似てるって、そう言ったら何て言うのかなあ……と思って、ふふ、と笑いながら。  まだ玄関と洗面所しか見てないから、言うのは後にしよ。 「優月、部屋にいこ」 「うん」  背中に優しく触れてくれる玲央の手を愛しく思いながら、並んで歩き出した。  

ともだちにシェアしよう!