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第767話◇

「うーん……まあでも、カッコいいお兄ちゃんだったけど……蒼くんはちょっと、特殊だったかな?」 「何が?」  真顔で聞かれるとちょっと怖いんだけど。 「だって、ちょっと怖そうなのに優しいし。挨拶ちゃんとしろ、とか皆に言ってたし。めんどくさって言うのに、オレの学校の運動会来てくれたり。オレ、子供だったけど、色々不思議だった。……あ、蒼くんの高校の制服もカッコよかったよね」  ふふ、と笑いながら言うと、蒼くんは、何か言おうとして、結局何も言わない。すると、久先生がクスクス笑って、オレと蒼くんを見比べた。 「そうそう、なんかね……優月が相手だと、蒼はたまに言い返すのやめるんだよね。優月が小さい頃からそうだった。今もそうなんだね」  可笑しそうに言われて、「そうだっけ……?」と蒼くんを見上げる。確かに今は何か言うのをやめたみたいだったけど。 「優月の前だと、めんどくさ、が減るの、面白かったな」  クスクス笑う先生に、んー?と首を傾げる。「でも、蒼くんが言うのはオレも聞いてましたよ?」と、不思議がっていると。 「優月が居ないと、それの十倍くらい言ってたよ」 「えっそんなに?」  蒼くんを見上げると、蒼くんは苦笑い。 「十倍は言いすぎ。んな訳ないだろ」 「あ、そうだよね」  あは、と笑いながら、蒼くんを見上げる。 「蒼も勝てないのか? 優月くん」  希生さんが笑うと、蒼くんは一瞬黙って、「勝ち負けじゃないし」と苦笑いを浮かべている。  蒼も、って。も、って、何だろう。  ……ていうか、そもそも、の話で。 「そもそもオレ、蒼くんに勝てたと思ったこと、一回もないですけど……」  そう言うと、皆がクスクス笑うので。  思い切り納得されたのかなと、それはそれでどうなんだろうと苦笑していると。 「優月は本気でそう思ってるんだろうけどな」  と、玲央がオレを見つめてくる。 「……どういう意味?」 「いや。良いよ。蒼さんは、お兄さんみたいって言ってたもんな」 「んー、うん。そう」  ふふ、と笑うと、蒼くんもそれ以上は何も言わず、玲央の写真に目を向ける。 「つかさ。……どう見ても、オレより玲央のが尖ってるだろ」 「そうですか?」  玲央が自分の写真を見ながら、ふ、と笑う。 「そんな感じも、カッコいいよねー」  紺のブレザーにネクタイしてるんだけど、ちょっと緩めた感じが、めちゃくちゃカッコよくて。なんか大人っぽくも見える。  んー。なんか。  オレの高校時代と並べたら、同じ年とは思えない、と思う。 「玲央って、高校生の頃から大人っぽいね」 「……そう?」  ふ、と玲央が笑ったオレの後ろから。 「大人っぽくなかったぞ? ガキんちょだった。完全に」  希生さんの、笑いを多く含んだ声が聞こえてきて、あ、と固まる。 「ていうか、優月くん、今の玲央を大人っぽいと思ってるのか?」 「え。あ、はい。すっごく……」  そう答えると、んー、と希生さんは自分の顎に触れて、何やら悩んでいる。 「玲央、どうやって、思い込ませた?」 「ちょっと、じーちゃん、人聞き、悪すぎねー?」  玲央がめちゃくちゃ嫌そうに言って、「優月聞かなくていいぞー?」と言うので、ふふ、と笑ってしまったら。 「何で笑うのかなー優月は」  と苦笑で見られて。 「だってやりとり面白いから……」  そう言うと、ふーと息をついた玲央は、くしゃくしゃとオレを撫でる。 「!」  何で今ここで、よしよし撫でたんだろう、と思った瞬間。  あ、やべ、という表情の玲央。   「んー……」  蒼くんがそんな風に言いながら、オレの向かい側のソファに腰かけて。 「……まあなんか、あれだよな」 「……?」 「うっかり撫でるくらい、いつもそうしてンのは、分かったって感じ?」  そんな風に言って笑いながら、蒼くんは久先生を見る。  ぼぼ、と赤くなったオレに、久先生は、「からかうなってば」と言いつつも、何だかニコニコ笑ってるし。  希生さんの方は真隣すぎて、今見れないのだけど。 「お前が人の頭撫でてる姿自体、あんまり見たことないかもな」  追い打ちなのか何なのか、そんな風に言って笑う。

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