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第773話◇
「希生さんに聞いてみたくて……思うこと答えてほしいんですけど」
「うん。いいよ」
「玲央は、女の子も大丈夫なので……その方がいいって思いませんか……?」
「んー……それは、でも、優月くんもじゃないの?」
聞き返されて、ちょっと止まる。
……確かに、オレもそうなんだけど。
でもオレ、女の子と付き合ったことなくて。付き合うほどにめちゃくちゃ好きってなったことがなくて。それで、玲央にこんなに恋してるから。もしかして、オレって、男の人が好きだったのかな? と思っている位で。でも、玲央以外の男子に何も感じたことはないし。……うーん。
「……オレは、女の子と付き合ったことが無くて」
「ん」
「かといって、男友達にときめいたことは、一度も無くて」
「うん」
「……女の子と付き合わなかったのは、どうしても、ていう程、まだ好きになったことがなかった、のかもしれないんですけど……」
「うんうん」
廊下を歩きながら、希生さんが笑んで頷く。
「玲央だけ特別すぎて、なんだか、オレは、良く分かんないんです」
「――――……」
「でもなんとなく、玲央は女の子も平気だからなぁ、って思ったこともあって」
希生さんに話しながら自分の気持ちを確かめてるみたいな気分。
でもやっぱり、他の男の人には興味が無くて、女の子とは、そこまでにはならなくて。
……玲央を好きになったってことだから。
やっぱり、そういうことかな。オレは、玲央だけが特別。
「男だからとかはね、玲央がどっちも愛せるって聞いた時から、正直、どうでもいいとは思ってるんだけど……。今聞いてたら……孫をそんなに好きになってくれて、ありがとうしかないかも」
クスクス笑いながら希生さんがそう言ってくれる。
「じいちゃんとしては。玲央が幸せならいいかな」
「……オレと居て、玲央が幸せなら、オレも幸せなので……」
少し顔を見合って、微笑み合って頷いてしまう。
「納得したら、ちょっと、ここに入ってみて、優月くん」
「はい?」
頷くと、希生さんが、ある部屋のドアを開けた。どうぞ、と言われて先に足を踏み入れたら、意外な空間にびっくり。スリッパを脱いで一段上がるようになってる。畳とふすま。
「わぁここって、和室ですか?」
「そう、ここだけ和室なんだ。いいよ、入って」
「はーい」
スリッパを脱いで畳を踏む。わー畳の感触。好きだなぁ、と思いながら、そっとふすまを開けると、中は完全に和の空間。
「一部屋だけは和室が欲しくて。洋館に変なんだけどね」
クスクス笑う希生さんに、首を振る。
「変じゃないです。すごく好きです」
ふすまを閉めてしまうと、広い和の空間。何畳あるんだろう。広い―。
合宿とかで来ても、雑魚寝できそう……。
窓の外、多分広いベランダなんだと思うのだけど、和風の庭園みたいな感じになってる。石が敷き詰められていて、和な感じの植物が置いてある。
「わー……落ち着きます、ね」
ふふ、と笑うと、希生さんが窓を開いてくれた。
風がさーっと通り抜けて、心地いい。
なんか不思議。
……玲央のおじいちゃんではあるけど、全然知らないに等しかった人と、こんなにずっと、二人で話してるとこ。
普通はあんまり無いかなぁ、なんて思いながらも、すごく楽しくて。
微笑んでしまいながら、部屋を見回す。
床の間もあって、掛け軸と花が飾られている。
なんかほんとすごいなぁと、きょろきょろしていると。
「玲央が茶道を習っていたのは聞いてる?」
「はい」
最初の頃に、言ってたなあと思いながら頷く。
「後で、ここでお茶をたてさせようか」
「……! はい」
すっごく見たい。
うんうん、たくさん頷くと、希生さんが、玲央に言おうねと笑った。
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