777 / 856

第774話◇

 喜んでいたその時、ふ、とあることに気づいた。 「あ、そっか……」 「ん?」  思わず漏らした言葉に、希生さんが聞き返してくれる。 「なんだか、いつも思ってたんですけど、玲央の仕草が綺麗なのも、お茶とか習ってたからなのかなって今思って」 「ああ。それはあるかもね。お茶は、丁寧な所作を繰り返すから」 「……希生さんも、習ってました、よね?」 「そうだね」 「久先生たちもな気がします。なんだか、指先まで綺麗ですよね」 「あぁ。久も習ってたから、多分蒼もじゃないかな」  なんか分かる気がする。  皆、本当に、綺麗に動く気がするから。 「優月くんは、習ってない?」 「はい。オレが習ってたのは……ピアノと絵で。あとは、習字とそろばんとプールは必要だからって頑張ってましたけど」  なるほどね、と笑って、希生さんが頷く。 「でも、優月くんも、物を取ったりする時、仕草が綺麗だけどね」 「……お手本だからかもです。久先生とか蒼くん。昔から、ずっと、絵を習ってる時も思ってたので……あと、最近は、ずっと玲央も」 「よく見てるね。観察する力、すごいんだろうね」  そう言ってくれる希生さんに、少し考えてから、つい苦笑してしまう。 「でもオレ、知らない人にはあんまり興味が無くて……。蒼くんには、人物描くんだからもうちょっと見ろってよく言われてて」 「ああ、そうなんだ」  クスクス笑う希生さん。 「でも、優月くんはその代わり、知ってる人のことは、すごく見てそう」 「……そう、かもです」 「いいんじゃないか? 蒼にもそう言っといたら?」  ふふ、と笑ってくれる。はい、と返事をしながら何だかすごく嬉しい。  ……なんか。蒼くんの言ってることも分かるから、色々見なきゃって当たり前に思うのだけど。……こういう話をして、こんな感じで返事をくれる人。  ……玲央のおじいちゃんとか、全然関係なく。  すっごく、好きだなぁ……。  玲央が、いっつも優しいのは。希生さんみたいな人と居たからかなあ。  根っこが優しいというか。  そういえば蒼くんもだ。  どんなにからかってきたり、口では色々言ってきたりしても。結局のところ優しいのは、久先生が優しいから、かなあ。  なんだかめちゃくちゃ好きな人達がここに居る気がする。  一緒に居れて嬉しいなぁ……。と、一人じーんと浸っていると。   「あ、そうだ。ピアノと言えば、ここにも置いてあるよ。弾いてくれる?」 「え、あるんですか? 希生さんが弾くんですか?」  そう聞くと、希生さんは首を振って笑った。 「ピアノは、玲央のためにあるんだよ。弾いてはないけど、年一回はちゃんと調律はしてあるから大丈夫だと思うよ」 「――――……」  玲央、あんまり帰ってないって言ってたけど。  玲央のために、ちゃんと調律してあるんだと思ったら、なんだか、またちょっと感動してしまったりする。 「あとで、玲央と、連弾、してもいいですか?」 「できるの?」 「はい。こないだ玲央と弾いたので、覚えてると思うので」 「ああ、玲央が習ってた時の楽譜もあると思う」 「ほんとですか? わー、楽しみです」 「こっちが楽しみだよ。玲央、ピアノ弾けてた?」 「弾けてたっていうか、オレよりものすごーく、上手です。リードしてもらって、ちゃんと曲になった感じで」 「ふうん……実は、色んな曲を玲央に弾いてもらいながら、お茶の時間とかにしようと夢見てたんだよね」 「じゃああとで、お茶の時間に弾きますね」  そう言うと、希生さんが嬉しそうに笑ってくれる。  

ともだちにシェアしよう!