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第776話◇
「あ。そうだ。玲央?」
「ん?」
玲央の腰に手を触れさせたまま、玲央を見上げる。
「あとでね、玲央にここでお茶立ててもらうのと……あと、ピアノで連弾することになったの」
「……んん?」
ちょっと不思議そうに見下ろされる。
「お茶を立てるとこは、オレがすっごく見たいっていうのと……あとピアノは、希生さんが、玲央が弾いてるとこ、みたいんだって」
「ふうん……?」
「……嫌?」
まっすぐ見つめて聞くと、玲央の瞳が、ふと細められる。
「嫌じゃないよ。ただ」
「……ただ?」
「じいちゃんと、オレの話をしてたんだろうなーって、思って。なんか、不思議でさ」
「あ、そうだよね。オレも、不思議だった」
「優月も?」
「うん。でも、すごく、楽しかったよ」
たまに、玲央を見てるみたいな錯覚もあって。
優しい感じが、そっくりで。
「玲央」
「ん?」
「希生さん、素敵だね」
「……そう?」
「うん。大好き」
もうそのまんま、思ったことを告げたら、玲央が、なんだか苦笑した。
「その感じで、じーちゃんと居たの?」
「ん?」
「……居たんだろうな」
オレが返事をしていなくても構わず、玲央は一人納得したように呟いて、クスッと笑った。
そのまま、引き寄せられる。
「……じいちゃんが大好き?」
「え。……うん」
じっと玲央を見上げると。
「オレとどっちが?」
「え」
希生さん、そういう好きじゃないけど。と、一瞬思ったけど、絶対そんなのは分かってると思うので、言わず。
ただ、玲央を見つめて、なんとなく微笑んでしまう。
「玲央のことが一番、好き」
「ん。……正解」
クスクス笑いながら、玲央がオレの両頬を、両手で優しく包む。
「正解だった?」
「ん、正解」
言いながら、玲央の唇が触れてくる。
「――――……」
優しい優しい、キス。
……玲央のキス、好き。
ちょっと離れてたから。……一時間だけど。
希生さんと、玲央の話をしながら、離れてたから。
こうしてくっつけて、嬉しい。
「――――……」
玲央が少し笑った気配がして。
舌が、入ってきた。
「……ん、ぅ」
希生さんちだから、触れるだけのキスなのかと思ってて、油断してて。
絡んで、噛まれて、ぞく、と震える。
「……ん……っふ」
ぎゅ、と瞳を閉じて、玲央の背中に、すり、と手を這わす。
深く深く、キスされて、んん、と声が漏れた時。
絡んでた舌が外れて、ゆっくりと離れて、最後にもう一度唇に触れた。
「……っ」
目を開けると、涙でもう滲んでて、視界がぼやける。
「……ごめん、可愛くて」
むぎゅっ、と抱き寄せられて、すごい至近距離のまま、涙をふき取られる。
「んん。……へいき……」
涙をふきふきしてくれてる玲央に、ふふ、と笑ってしまう。
「オレも、玲央補給したかったみたい……」
そう言ったら。
「……そんなこと言われると、もう、思いきっり補給させてあげたくなるな」
「――――……っっ」
なんだかあやしげな雰囲気で、ニヤ、と笑う玲央に、ぷるぷるぷると首を振ると。ぷは、と笑って、嘘だよ、と玲央がオレの頭を優しく撫でる。
…………大好きすぎるんですけど。ほんとに。
目の前で、楽しそうに笑ってる玲央が……。
んー。もうほんと「尊い」。
(2023/12/1)
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