779 / 856

第776話◇

「あ。そうだ。玲央?」 「ん?」  玲央の腰に手を触れさせたまま、玲央を見上げる。 「あとでね、玲央にここでお茶立ててもらうのと……あと、ピアノで連弾することになったの」 「……んん?」  ちょっと不思議そうに見下ろされる。 「お茶を立てるとこは、オレがすっごく見たいっていうのと……あとピアノは、希生さんが、玲央が弾いてるとこ、みたいんだって」 「ふうん……?」 「……嫌?」  まっすぐ見つめて聞くと、玲央の瞳が、ふと細められる。 「嫌じゃないよ。ただ」 「……ただ?」 「じいちゃんと、オレの話をしてたんだろうなーって、思って。なんか、不思議でさ」 「あ、そうだよね。オレも、不思議だった」 「優月も?」 「うん。でも、すごく、楽しかったよ」  たまに、玲央を見てるみたいな錯覚もあって。  優しい感じが、そっくりで。 「玲央」 「ん?」 「希生さん、素敵だね」 「……そう?」 「うん。大好き」  もうそのまんま、思ったことを告げたら、玲央が、なんだか苦笑した。 「その感じで、じーちゃんと居たの?」 「ん?」 「……居たんだろうな」  オレが返事をしていなくても構わず、玲央は一人納得したように呟いて、クスッと笑った。  そのまま、引き寄せられる。 「……じいちゃんが大好き?」 「え。……うん」  じっと玲央を見上げると。 「オレとどっちが?」 「え」  希生さん、そういう好きじゃないけど。と、一瞬思ったけど、絶対そんなのは分かってると思うので、言わず。  ただ、玲央を見つめて、なんとなく微笑んでしまう。 「玲央のことが一番、好き」 「ん。……正解」  クスクス笑いながら、玲央がオレの両頬を、両手で優しく包む。 「正解だった?」 「ん、正解」  言いながら、玲央の唇が触れてくる。 「――――……」  優しい優しい、キス。  ……玲央のキス、好き。  ちょっと離れてたから。……一時間だけど。  希生さんと、玲央の話をしながら、離れてたから。  こうしてくっつけて、嬉しい。 「――――……」  玲央が少し笑った気配がして。  舌が、入ってきた。 「……ん、ぅ」  希生さんちだから、触れるだけのキスなのかと思ってて、油断してて。   絡んで、噛まれて、ぞく、と震える。 「……ん……っふ」  ぎゅ、と瞳を閉じて、玲央の背中に、すり、と手を這わす。  深く深く、キスされて、んん、と声が漏れた時。  絡んでた舌が外れて、ゆっくりと離れて、最後にもう一度唇に触れた。 「……っ」  目を開けると、涙でもう滲んでて、視界がぼやける。 「……ごめん、可愛くて」  むぎゅっ、と抱き寄せられて、すごい至近距離のまま、涙をふき取られる。 「んん。……へいき……」  涙をふきふきしてくれてる玲央に、ふふ、と笑ってしまう。 「オレも、玲央補給したかったみたい……」  そう言ったら。 「……そんなこと言われると、もう、思いきっり補給させてあげたくなるな」 「――――……っっ」  なんだかあやしげな雰囲気で、ニヤ、と笑う玲央に、ぷるぷるぷると首を振ると。ぷは、と笑って、嘘だよ、と玲央がオレの頭を優しく撫でる。  …………大好きすぎるんですけど。ほんとに。  目の前で、楽しそうに笑ってる玲央が……。  んー。もうほんと「尊い」。 (2023/12/1)

ともだちにシェアしよう!