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第778話◇
「オレ、別にすごいスパルタで色々やらされた訳じゃないけどさ」
「うん」
「これがここまで出来たら別のこと習う、みたいな感じだったから、早くできないといっていうのが、オレの中にはあって。……なんとなく、できないって言いにくい|性質《タチ》なんだけど……」
「ん……」
「優月には言えそ」
「うん。言って?」
何だか嬉しくなって、笑顔で頷く。
頑張ってきたからこそ、玲央は、今、色んなことが出来るんだろうけど。
オレ、「出来ない」って言える相手でいられたら、いいなあ。
それって多分、出来ることを言うよりも、特別だと思うから。
「オレの方ができないこと、たくさんあると思うけど……」
そう言うと、玲央はオレの頬に触れて、すりすりと撫でる。
「んなことない。オレには絵なんて描けないし……こんなに人、和ませられない」
「絵はまだわかるけど、その後の何……?」
クスクス笑いながら聞くと、玲央は、言葉のまんま、と言って笑う。
「優月が居てくれるだけで自然と頑張れる気がするし」
「あ、それはオレもそうだから分かる」
「分かる?」
「うん」
頷くと、玲央は、そっか、と言いながら、オレの頭をよしよし撫でる。
「でもあれだよな。優月で和むのって、オレだけじゃないんだよなー……」
「ん?」
「皆が和んでる気がするから」
「……そう??」
「んー……まあ、いいか。オレが一番、ずっと居られるから」
「??」
まあいいか? とは……??
ちょっと不思議に思いながら、玲央を見上げていると。
「ほんとは、ひとりじめしてたい」
「――――……」
「とか言ったら、嫌われるか」
玲央が、ちょっと困ったように笑って、オレの頬にぷに、と触れる。
嫌わない。
……嫌う訳がない。……もー。玲央。
オレは、目の前にいる、玲央を見上げて、ちゅ、とほっぺにキスした。
「オレが玲央を嫌うことなんて、無いから」
そう言うと、玲央は、ふ、と瞳を細めた。
「ひとりじめしてくれても、それはそれで幸せそうだからいいかも」
「……そういう甘いこと言っちゃうか?」
「ふふ。だってそれって玲央のこともひとりじめできるってことだよね?」
「――――……まあ。そうだけど」
顔を見合わせて、ぷぷと、笑い合う。
「しないけどさ」
「うん。分かる」
「まあでも、そういう風に、ちらっとでもオレが考える奴だったんだなってことに、死ぬほど自分でびっくりしてるけどな、オレ」
「……そうだね、玲央だもんね」
「な」
「束縛とか、するのもされるのも、嫌って言ってたもんね」
なんか言ってたらおかしくなってきて、ふふ、と笑ったら、玲央も苦笑い。
「ほんと。絶対オレ、なんかおかしくなってる」
クスクス笑いながら、玲央がオレの頬をすりすりと触れてる。
「……こんな風に、可愛くて触るのも、今までないから」
「そうなの?」
すりすり頬を触るのは、玲央がそれを好きなんだと思ってたかも。
「優月といると、今までのオレじゃなくなってくみたいで……」
「……ちょっと嫌だったりする??」
聞くと、玲央は少しだけ首を傾げて、考えて。
それから、ふ、と笑った。
「嫌だったら、お前と居ないよな?」
優しい瞳に、嬉しくなって、笑うと、触れてた手でそのまま引き寄せられて、ちゅ、と優しくキスされた。
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