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第779話◇

 蒼くんと一緒に皆と居た部屋に戻ると、入り口のところで止まった玲央が希生さんに向かって、話しかける。 「じいちゃん、先にピアノの連弾、練習してきていい?」 「ああ。いいよ」 「楽譜は? 前のとこ?」 「動かしてない」 「了解。ばっちりになったら呼ぶから、待ってて」  そう言った後、「な?」とオレを見る玲央。  オレは、楽しそうな玲央の顔に何だか嬉しくなって、笑顔で、うん、と頷く。  希生さんも、そんなオレ達を見てクスクス笑うと、呼ばれるまでのんびりしてる、と言って、久先生を見る。頷く久先生に、蒼くんだけは、んー、と時計を見ながら。 「オレ、少し仕事してこようかな。時間どんくらい?」  蒼くんの言葉に、玲央とオレは顔を見合わせて、ちょっと首を傾げた。 「……三十分位?」  玲央が言うので、ちょっと考えて、多分こないだなんとなくで弾けたから、それ位練習すればいけるかなあと思って、「ん」と頷くと、蒼くんは「なんだ」と笑う。 「そんなんなら待ってる」 「うん! 待っててねー?」  三人に手を振りながら部屋を出て、玲央について、希生さんの書斎に足を踏み入れる。 「わー……」  高い天井。ここもすごく広い。  書斎全体はここもまたすごく静かな空間で、奥にある本棚と大きな机がすごく落ち着いて見えて、もうとにかくすごく、いい雰囲気。  大きな窓から差し込む光が、置いてあるピアノを照らしていて、広い部屋の中でも、とても存在感があって目を引く。  ここで、玲央とピアノを弾けるんだ。   ……しかも。玲央のピアノを聴きたがってた、希生さんの前で。  なんか、すごく嬉しい。  わくわくするし、ドキドキ。胸が高鳴る。  玲央にドキドキする時とはちょっと違う。  期待、ていうのかな。ここで、ピアノの音を奏でられるって、嬉しすぎる。 「玲央、早く弾こう?」 「――――すげー嬉しそうだな」  オレを見て、目を細めて笑う。だって、と返してから、少し考える。 「だって、こんな、素敵なとこで、玲央と弾くのをさ」 「ん」 「……すごく大事な人達に、聴いてもらえるんだよ。なんか、考えただけで、泣きそう」  そう言うと、玲央はクスクス笑いながらオレの頭に触れる。 「まだ泣かないで。とりあえず練習しようぜ?」 「まだって……今のは、たとえっていうか」 「うんうん」 「泣かないよ、さすがに……」 「はいはい」  まともに聞いてくれてない感じだけど、何だかとっても優しい声で頷きながら笑う玲央に肩を抱かれたまま、ピアノのところに辿り着く。  表面に細かい模様がある、とてもとても綺麗なカバーでおおわれている。  ドキドキしてるオレの前で、玲央がカバーに触れる。自分で触れなくても分かる、絹みたいな質感の黒いカバーがするりと外された。 「綺麗なピアノ……」  思わず言うと、玲央が、ふ、と笑って、「開けてみな」と言ってくれる。  なんだか緊張しながら、ゆっくりとふたに触れて、そっと引き上げる。  黒と白の、美しい並び。  触れれば、素敵な音が溢れることは、分かってる。  ワクワクが、抑えきれなくなっていく。 ◇ ◇ ◇ ◇ (2023/12/15) ひどい体調不良で起き上がれず寝込んでいました💦 ご心配おかけしてたらすみません…(^^; 約一週間ぶりに小説書いたら楽しくて。 またぼちぼちアップしていきますので、お付き合いいただけたら嬉しいです💖

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