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第783話◇
四人で玲央を待ちながら色々話していたら、少しして扉が開いて玲央が入ってきた。
「お待たせ。多分もう大丈夫」
「多分?」
玲央の言葉に、希生さんが笑う。すると玲央も苦笑い。
「ん、まあきっと」
希生さんがクスクス笑いながら立ち上がったので、オレ達も続いて立ち上がる。
少し早足で玲央の近くに行って、玲央を見上げた。
「お疲れさま、玲央」
「ん」
クスッと笑ってオレを見つめる。廊下に出て、ゆっくり歩き始める。
「やっぱ曲作りで弾く位じゃだめだな」
小声でそんな風に言ってくる。
「本格的に曲弾くの久しぶりすぎて、最初思うように指動かなかった」
「難しい曲、弾くの?」
オレと連弾してる時はそんなことなかったなと思って、そう聞くと、ん、と玲央が頷いて、また口元を耳に寄せてきた。
「じーちゃんが、昔これが聞きたいって言ってたやつ。一応それも弾いてみる」
「そうなんだ、いいね」
わあ。それは、希生さん喜ぶね。
オレまで嬉しくなって、うんうん頷いていると。
「オレが好きな曲と、難しいのと、どっち先に弾くかな、と思ってて。じーちゃんの方はミスるかもしれないから、最後はミスんない曲でしめるか……」
どうすっかな、と玲央が言うけど。
「ミスっても、そっちが最後の方が、嬉しいと思う」
少し後ろを歩いてくる希生さんたちを振り返ってから、また玲央を見上げて、そう言った。すると、ちょっと考えてから、そうだな、と笑う。その後でふと、玲央がオレを見つめて「優月との連弾を後にする?」と聞いてきた。
「え。ううん」
ぷるぷるぷる、思わず速攻で首を振る。玲央は、何でそんな必死で即答?と可笑しそうに笑う。
「……オレ、実は少し緊張してて」
「そうなのか?」
「うん。ちょっとね、ドキドキしてる。玲央の演奏についていきたいし。すごい、ドキドキ」
胸に手を当てながらそう言うと、クスクス笑う玲央に、ぽんぽん、と背中を軽くたたかれる。
「大丈夫。いつもどおり弾けば。優月のピアノは、聴いてて気持ちいいから」
「……ん、ありがと」
なんだかすごく嬉しくて、うん、と頷いてから。
「あ、でもね、自分は弾いちゃった状態で玲央の曲聴きたいなって思うから……集中したいの。だから、連弾するのが先でいい?」
「集中されんのか」
ふ、と可笑しそうに笑った玲央は、ん、いいよ、と頷いてオレを見つめる。
「まあ、頑張る。連弾、がんばろな」
「うん」
「……つか、ここでピアノの発表会することになると思わなかったけど」
「あはは。そだね」
だって希生さんが、聴きたそうだったから。
……聴いてほしいなって、思っちゃったし。
あれ、そういえば、希生さん、お茶しながら聴きたかったとか言ってたけど……。
そう思って、振り返る。
「あ、玲央、ちょっと待ってて?」
「ん?」
オレは、少し戻って、希生さんの元に近づく。
「希生さん、お茶しながら聴きたいって言ってたのは……?」
そう聞くと、希生さんはオレを見て、ふ、と微笑んだ。
「ああ、いいよ。せっかくだから、ちゃんと聴くから。ありがとうね。終わったらお茶にしよう」
その答えに、はい、と笑って頷いてから、また玲央の元に戻る。
「どした?」
「ううん。んーと……希生さん、お茶しながら玲央のピアノ聴くのが夢だったって」
「あぁ。言ってたな」
「言われてた?」
「何回も言われた」
クスクス笑って、見つめ合う。
「お茶はいらないって?」
「うん。せっかくだからちゃんと聴くって」
「ちゃんと、ね。つか、プレッシャーだよな?」
苦笑いの玲央に、「玲央は大丈夫だと思う」と自然と言葉が出てしまう。
「そう?」
「うん」
希生さんの書斎の部屋、玲央がドアを開けてくれて、中に入る。
ピアノが、なんだかとても、特別なものに見える。ますます、ドキドキしてくる。
(2023/12/24)
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