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第794話◇

 部屋に入ると、蒼くんが、「優月、スマホ持ってる?」と聞いてきた。  うん、と答えると、「スマホで動画撮ってやろうか?」と笑う。嬉しい、と思って玲央を見ると、ん、と笑ってくれるので、ポケットからスマホを出して、カメラを開いて渡した。  蒼くんが、部屋にあったサイドテーブルを近くまで持ってきて、その上で動画を撮る準備してくれている間に、玲央とオレはピアノの椅子に座った。 「玲央、蒼くんが写真も撮ってくれるって言ってたんだけど良い?」 「ん? ……というか、撮ってもらっていいんですか?」  玲央が蒼くんを見上げてそう言うと、蒼くんはクスッと笑った。 「オレから撮るって言ったから」  笑って見せる蒼くんに、玲央も「お願いします」と微笑む。 「スマホの録画ボタン押したら、少し離れたとこから勝手に撮るから、こっちは気にしないでいいよ。目線もいらない」  そう言う蒼くんに、二人で頷く。  希生さんと久先生が、少し離れたソファに腰かけたのを確認してから、玲央と視線を合わせる。 「優月、今も緊張してる?」  小声で言う玲央に、ん、と頷く。 「ドキドキしてる。……でも、すごく楽しい気分かも」  そう言うと、玲央はオレをちらっと見て、ふ、と笑った。 「楽しいんだ?」 「うん」 「じゃあ、最後まで楽しも」  クスクス笑う玲央に頷く。 「オレは弾き終えたら、希生さんの隣のソファに座るね」 「優月が座ったら、オレ、弾き始めるから」 「うん」  そこまで決めてから、ピアノに向き直る。 「じゃあ始めます。一曲ごとに拍手とか無くて大丈夫です。続けて弾くので」  玲央が笑みを含んだ声で言うと、皆が微笑んで頷く。蒼くんは、スマホを操作してから離れていった。  そっと鍵盤に触れる。とても静か。  イントロからゆっくりと弾き始める。続けて玲央も静かに音を重ね始めると、緊張していたのは、弾くほどに解けていく。  玲央と奏でる音がどんどん重なって、部屋の中に広がっていく。  花が咲いて、広がっていくみたいな、そんなイメージが、浮かぶ。  玲央と弾いてると、本当に上手に音を重ねてくれるから、なんだか自分が上達したみたいに感じる。  ――――何度弾いても、気持ちいい。  ずっとずっと、弾いてたい。  練習もしたけど、結局本番は玲央はアドリブ。リズムを刻んでくれる中で、オレはメロディを丁寧に奏でる。たまに手がクロスして、指先が触れ合うと、微笑んでしまう。  なんか。本当に、楽しい。    楽譜はもう見てない。  少し難しいとこを弾き終えて、間奏のところ。ふと玲央の方を見ると、同じタイミングで玲央もこっちを見てくれて、目が合うと、気持ちが緩んで、口元が綻ぶ。  ――――すごく、好きだなあ、玲央。  多分初めて会った時に、連弾したとしたら。それだけで、好きだなと思って、友達になってもらったかも。  波長が、好きというのか。根っこの部分が、大好き、というのか。  そういう、目には見えない部分が、もう好き。    あっという間に一曲、弾き終えてしまった。  すぐに次の曲。高い音も低い音も、端まで使う、難しい曲。  鍵盤の端まで手を伸ばし、和音を響かせると、部屋中に、綺麗な音が響き渡る。  ワクワクしながら引き続けて、最後の音を弾いて指を離すと、ゆっくりと響いたピアノの音が消えていく。  余韻に、なんだか少し泣きそうになるけど。  それを我慢して、立ち上がった。  感じる玲央の視線に、少しだけ瞳を合わせてから、ピアノから離れて、ソファに座る。  歩いてる間に、なんとか、泣いちゃいそうな気持から復活。  玲央と居ると、何だか、感動しやすくて、ほんと困るなぁ。  ふ、と静かに息を吐いた玲央。  目を伏せて、集中してる。  なんかもう、また泣きそう……。 (2023/12/30)     ◇ ◇ ◇ ◇ ブログやXなどに書いてますが、届いてない方が居るかもなので。 作品の後書きに書いておきます。 25日にアルファポリスのBL小説大賞の結果が発表されて、 恋なんかじゃないの最終順位は、9位でした。 3年間参加してきましたが、8位、12位、9位。こんなに上位にずっと置いてもらえるとか、ほんと感謝です( ノД`) ひみつの巣作りとあわせて大賞ポイント順で、10位以内に二作品。 投票や閲覧や感想などの総合ポイントでの順位なので。 この順位は、もう応援してくださった方達のおかげに他ならず(´∀`*) ほんとうに嬉しかったです。ありがとうございました♡

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