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第798話◇
最初の部屋に戻ると、部屋の左奥にあるカウンターのところで、希生さんが何か、準備を始めていた。大きなテレビや暖炉がある反対側の奥に、カウンターがあるのはさっきも目に入っていたけど、と近づいて見回す。
すごく綺麗な大理石っぽいカウンター。なんか艶々して見える。そこに、希生さんがコーヒーを淹れる道具を並べていく。食器棚から、オシャレなマグカップを出してきて、目の前に置く希生さん。
「希生さんが淹れてくれるんですね」
「そうだよ」
豆を挽く準備を見て、なんか本格的……と見ていたら、近くのソファに腰かけた久先生がクスッと笑った。
「コーヒーが好きすぎて、ものすごくこだわったコーヒーショップを開いてるくらいだからね。美味しいよ」
「わーすごい。どこにお店、あるんですか?」
「全国いろんなとこ。高級ホテルとかデパートの近くにあるよね?」
「拘りたかったから、そういう層向けの店にしたからな」
希生さんと久先生の言葉に、こくこく頷きながら、想像。
おお、なんかすごそう……。
好きだとコーヒーショップを開いちゃうんだ。しかもこだわりで高級な感じの……と、やっぱり色々違う世界に驚きながら、ふと気付く。
「さっきご飯を用意してくれた人たちは今、ここに居ないんですか?」
お茶を淹れてくれるの、その人達なのかと思ったら、希生さんだった。
そういえば、中を歩いてる時、あんまり気配がなかったような……?
「夕飯の用意をする時に戻ってくるよ。お茶はこっちで淹れると伝えたから」
「今はどこにいるんですか??」
「ここの裏に、使用人たちが住んでる家があるんだよ」
「――――……」
ぱちくり、瞬きしてしまう。すると、隣に居た玲央がクスクス笑った。
「じーちゃんちとオレの親が住んでるとこ、住み込みで、料理する人とか、屋敷の管理をする人とかが、いるんだよ」
玲央が説明してくれるのを聞きながら、ただただ、頷く。
……桁違いなお金持ちって。学校の噂では聞いてたけど。
住み込みの使用人のお家があるって、考えたことみなかった。
「……なんかすごいね」
「んー……すごい? っても別にオレがすごいんじゃないけど」
ふ、と笑って言う玲央に、希生さんが笑ってる。蒼くんも久先生の隣のソファに腰かけて「希生さんとこはほんと、すごい気がする」と笑う。
「蒼くんと久先生のお家もお手伝いさんいるよね?」
オレがそう聞くと、蒼くんは笑いながら。
「居るけど、ここまで規模でかくないから、住み込みではないよ。別邸とか、すごいよな」
ははっと蒼くんは笑ってるけど。
……まあ、それも、普通じゃない、と思うんだけど。普通はお手伝いさんとか居ないんだよー。と言いたい。
そういえば。
玲央って、オレの実家に来た時、何にも言ってなかったけど。
やっぱり、もしかしてすっごく狭いなーとか、思ったのかな??
今玲央が使ってる二つのマンションは、そりゃ広いけど、多分一人で暮らしてるから、そこまで部屋数を求めなかったのか、桁違いな広さってほどではないんだけど。
けど、もともとここに住んでて、これが普通だったなら……うーん、感覚が違う気が。
それとも、世の普通の家はこんなもの、ていうのを知ってるのかな?
でも玲央の周りの友達って、あの私立に幼稚園から通ってる人達だし、きっと、お金持ちが多いに違いないから、そういうとこばっかりだと……?
「どした?」
「んー。なんか。すごいなーって思ってる」
ふふ、と笑ってしまう。
「なんか、ドラマとかに出てくる、冗談みたいにおっきなお屋敷、そのまんまな感じなんだもん。ほんとにこんな感じなんだーって思って」
「ドラマ?」
「うん。なんかほら……遺言を発表します!とか、そんな感じのシーンで始まりそう……?」
「それって、殺人事件とか起きるやつ?」
玲央がクスクス笑いながら聞いてきて、――――あ、そういえば……?と困ったところで皆に笑われる。
「じゃあ、あれだな、玲央は、遺産目当てで戻ってきて、最初に死ぬ役とか? 派手な孫とか、役回りはそっちか?」
「えっ!」
オレがびっくりして声を上げて希生さんを見たら、そのオレを見て、また皆笑うし、玲央は、「意味わかんねぇって言おうと思ったら、優月、マジで超驚いてるし……」と、肩を震わせてる。
目の端に、蒼くんがまた笑ってるのも見える。
……この二人、そういえば、結構笑い上戸なのだった……。
クールな感じの見た目なのに、笑い出すと、止まんないとこ、なんか似てる……。
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