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第801話◇

「コーヒー入ったから座って」  希生さんに言われて、ソファに腰かける。淹れてくれたコーヒーを配られて、なんだかすごく高そうなマグカップをゆっくり手に取った。  これは絶対落とせないなーなんて思った自分に、ちょっと可笑しく思いながら。  口に近づけると。 「わー。良い香り」  わーこれは……ミルク入れちゃうともったいないかも……。  こく、と飲むと、鼻の方に、コーヒーの香りが抜けていく。  オレを見てる玲央をぱっと見上げて、うんうん、と頷くと、玲央は、ふと微笑んで頷く。 「飲める?」 「うん! 飲めるっていうか、おいしい」 「それは良かった」  玲央の隣で、希生さんも微笑む。 「苦いだけじゃないですね。今まで飲んだブラックは、にがいなーっていうのが先にあって、すぐミルク入れちゃってたんですけど」 「うん。苦味を楽しむものもあるしね」 「おいしくてびっくりです……」  こく。 「甘い、感じもする……ような?」 「甘みも感じる?」  言ってから、コーヒーだけで甘いなんて変かなってちょっと思ったけど。  希生さんが何だか嬉しそう。 「優月くんの舌は正しいね」  クスクス笑って、希生さんが玲央を見る。 「甘みも感じられるなら、余計うまいだろ」 「ん」  頷くと、おいしいよな、と笑う玲央。  ブラックでも甘く感じるコーヒーがあるんだ。  コーヒーってすごく落ち着く。  すごくゆっくりしたコーヒータイムを過ごした。ミルクを入れなくても、おいしく一杯を飲めたの初めて、とかそんな話をしていたら、飲み終えた玲央がゆっくり立ち上がった。カップを運ぼうとすると「そのままでいいよ」と希生さんに止められた。 「こっちはゆっくり片付けとくから、外行ってきな?」 「ん。ありがと。いこ、優月」 「あ、うん」  玲央のあとについて、立ち上がる。先生と希生さんに、いってらっしゃい、と言われて、いってきますと答える。蒼くんには、池落ちるなよとからかわれつつ。部屋をあとにした。  靴を履いて、外に出て、玲央の行く方に一緒に歩き始める。 「コーヒー、おいしかった~」 「良かったな」 「うん」  そのまま少し玲央が黙る。 「玲央?」 「ありがとな、来てくれて。じーちゃん、優月が来て喜んでる」 「だといいな」 「嬉しそうだから絶対。ほんとは分かりにくい人なんだけどな」 「そっか」  よかった、と微笑みながら、玲央を見上げる。 「というか、連れてきてくれて、ありがと」 「ん」  ふ、と玲央がまた微笑む。 「ね、玲央、どこに動物がいるの?」 「ん。むこう」  と言われても、特に先には何も見えない。  広い芝生と、色んな樹と花、通路もできてて、見回す。 「なんか、植物園とか、バラ園に来てるみたい」 「まあそんな感じのとこだよな」 「あ。ねえねえ、玲央」 「ん?」 「競争しようよ」 「競争?」  不思議そうな玲央に、オレは、前方長いまっすぐな道を指さした。 「よーいどんで!」 「んー? いいけど」 「玲央、早そうだなーと思ってたんだーなんかここすごく走りやすそう……」 「え、本気で走るのか? 軽くじゃなく?」 「そう、本気で」  玲央はオレを見て、まあいいけど、と楽しそう。 「玲央、早い?」 「普通? 優月は?」 「……お楽しみで」 「なんだそれ」  ふ、と可笑しそうに笑う玲央と、横に並ぶ。  向こうの方まで続くコンクリの道。 「どこまで?」 「うーん、適当に? 勝負がついたら?」 「オッケ」  クッと笑う玲央。  よーい、どん! とオレが言って、玲央と一緒に、走り出した。 (2024/1/29) 801話(やおい)だ…(๑´ლ`๑)フフ♡ ……分かんない方いるかな?💦

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