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第803話◇

 玲央に抱き締められてる時って。  何にも怖いことないなーって思う。  幸せしかない。  ……もし、今地球が滅亡しますって、言われても。  今このまま、ならいいな。とか。それくらい幸せ。ってどんだけなの。しかもちょっと意味わかんないな。  でもなんか今そう思っちゃった。 「……玲央」  きゅ、と背中にしがみつく。 「不安に思うことがあったら、ちゃんと言うから」 「ん」 「……玲央に言わないでモヤモヤしてるとか、しないよ、オレ」 「ん」 「大事だから。何か思うことがあるなら、話したいし。だから、心配しないで」 「ああ。優月は、そういう奴だよな」  ちゅ、と頬にキスされる。 「余計なこと言ったし……なんか、気弱なこといったかも」  なんかちょっと照れているらしい玲央がオレから目を逸らすと、もうやたら可愛く見えて、きゅう、と胸が締め付けられる。  うぅ。可愛いよー……。 「優しいだけだと思う」  むぎゅー、としがみついて、そう言うと、玲央は、クスクス笑った。 「オレいっつも、思い知るんだけどさ」 「うん?」  胸に埋めていた顔を上げて、玲央を見つめる。  オレを見つめる瞳は、本当に綺麗で。  ――――玲央って、誰よりも、外も中も、まっすぐで綺麗だと思うんだけどな。 「やっぱ、オレより優月の方が、強いな」  そんなことを言って、玲央はオレを見つめて、微笑む。 「……」  強い……。なんか前も玲央に言われたような……。 「そう? かな?」 「ん。そう。なんかオレ。優月の可愛いとことか、優しいとことか好きだけど」 「だけど?」 「……うまく言えないけど。オレにはない強さが、すげえ好き。安心する」 「――――そう?」 「ん」  ふ、と笑って、玲央がオレの背に手を置いて、歩き始める。 「やっぱあれだよな。……ただ強いってだけじゃ荒れるし。優しいだけじゃ弱いし。……強くて優しいのが、一番な気がする」 「歌詞みたいだね」 「……そーだな。いつか入れよっかな」 「ふふ。うん」  頷いて、隣の玲央を見上げる。 「強くて優しいとか。玲央のことだと思うけど」  そう言うと、玲央は、何も言わず、ふ、と笑ってオレを見つめる。  昔の玲央って、皆が言う。玲央も、昔のオレって、言う。  ……うーん。  そんなに前の玲央、ひどいかなぁ??  いつもぼんやり思うことを、また少し考えていると、玲央がオレの顔を覗いた。 「どした?」 「……昔の玲央、てよく言うでしょ皆。玲央も、昔のオレって。希生さんとかも言ってたし」 「ん」 「でもさ。人と一対一で付き合うのが嫌になっちゃってただけでさ。それは何か色々あったみたいだし。玲央くらいモテちゃうと、高校生とかの時とか面倒になってもしょうがないのかなーて思うし。……相手も納得してたんだし、そんでもって、玲央のこと、皆好きだったんだし。別にいいんじゃないかなと思うの」 「……」 「バンドの皆だって、玲央のそこらへんが色々あったって、玲央のこと好きで、玲央と一緒に居たんだし、皆面白がってるだけで、玲央のことはもともと好きなんだし」 「ふ」  玲央が可笑しそうに笑う。 「あ、優月、そっちの小屋、入ろ」 「うん」  少し先に、確かに小屋が。何の小屋だろ。と近づきながらも、話を続ける。 「皆が変わったっていうことは、ほとんどオレには嬉しい変わり方だから、皆が話してるのは、普通に聞いてるけど」  そう。いつも普通に聞いてるけど。  ちょっと前はそうだったんだーとか、普通に聞くけど。 「オレの中の玲央は、ずっと一人というか……同じ玲央だから」 「……そっか」  ふ、と嬉しそうに笑う玲央。  しかもしかも、玲央は、オレと居るようになって。  なんかたまに照れたり。すごく可愛いなって時もあったりする。そういうの、皆はあんまり知らないんだよね。と、ちょっとだけ優越感があったりもしてしまうし。  小屋の扉を玲央が開けてくれて、足を踏み入れたら、もう一枚ドアがある。 「逃げないようになってるんだよ」 「そうなんだ」  何が居るんだろ、と思っていると。玲央がくるっとオレを振り返った。 「優月は、皆が言う「昔のオレ」も好きってことだよな?」  そんな風に聞かれて、めちゃくちゃ嬉しくなる。 「うん、そう。すっごい、大好き」 「――ん」  そう。大好き。会った時から、ずーっと。  うんうん。そうなんだよ。前の玲央、とか、関係なくて。  全部好き。  そうそう。納得して、うんうん頷いていると。  腕を引かれて。とん、とドアに背を付けられた。 「――――」  見上げると、あ。なんか。また照れてる、玲央。  ……可愛い。  まっすぐ、見つめられたまま、ゆっくりゆっくり、キスされる。

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