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第804話◇

 軽くキスされてから、そっと離される。  もう一枚のドアを開けて中に入ると。 「うわ……ウサギ!」 「好き?」 「好き好き。嫌いな人いるのかな?」 「どうだろ?」  玲央はオレを見て、ぷ、と笑う。 「そう思うくらい、好き。可愛い」 「そっか」  小屋の中は、三メートル四方くらいかな。  自由にウサギが動いてる。 「何、この空間……可愛すぎる」  ゆっくり、近づいてみる。  慣れてるみたいで、逃げることはないみたい。 「撫でてもいい?」 「いいよ」  そーっと手を伸ばして、ナデナデしてみると、めちゃくちゃフワフワ。  なんて可愛いんだろう。 「優月」 「ん?」  はい、と四角く切られた人参を手渡される。 「食べるかな」  ほれ、と口の前に差し出してみると。  しゃくしゃく食べる。 「…………っ」  ナニコレ。可愛すぎる。  ……胸がきゅんきゅんする。 「はー……かわいー……なにこれー……」  言いながら玲央を見上げると、ふ、と笑った玲央がオレの隣にしゃがんだ。 「オレはそう言ってる優月が可愛い」 「え」  まっすぐにそんなセリフを言われて、またこっちでも、きゅんとする。  ……忙しいな、心臓。  内心うろたえながらも、ウサギがしゃりしゃりするのを見つめる。  玲央が不意に、クスクス笑い出した。 「オレお前に、ハムスターに似てるっていってるけど……ウサギも似てる。同類な感じするな?」 「……まあ。ふわふわのまぁるい感じ、だよね」 「そっくり」 「……オレ、こんなに可愛くないと思うんだけど」  不思議に思いながら、可愛いウサギを見つめていると、ちょうどニンジンを食べ終わると、緩いぴょんぴょんをしながら、ウサギが動いていってしまった。 「ていうか、動き方まで、めちゃくちゃ可愛い……」 「似てるよ」 「えっ似てないでしょ??」 「ふわふわな感じ」  オレは、はて、と玲央を見上げる。 「玲央の目には、オレは、ふわふわのフィルターがかかってるのかなあ」 「そうかも」 「オレの目には、なんか、きらきらってしたのが掛かってるけど」  ぷぷ、と笑いながら、そう言うと、玲央はちょっと首を傾げて、そうなの? と笑う。 「うん。そう。いつもキラキラして見える」 「……良く分かんないけど」 「オレもふわふわ良く分かんないけど」 「それは皆が分かってくれると思うけどな」 「ええ……そう??」  ふふ、と笑い合いながら、もこもこぴょこぴょこ動いてるウサギたちを見ながら歩く。 「なんでこんなにウサギ居るの?」 「……じいちゃんが好きだから」 「そうなの? なんかイメージが……」  どっちかというと、久先生の方がウサギ、似合う。  希生さんに似合う動物は……うーんと……。 「希生さんは、ドーベルマンとかなんか、カッコいい動物って気がする」  そう言うと、玲央は、ああ、と笑う。 「分からなくはない。雰囲気だよな」 「玲央も、カッコいい犬、似合う」  あれ、でも。なんかそういえば。 「あれ。ポメラニアン飼ってたって、言ってたっけ?」 「ああ、覚えてた? ん、そう。じーちゃん、ポメ飼ってた」  ポメかぁ……。 「希生さん、可愛いもの、好きなんだね」  なんかシュッとしてて、見た感じではそんな雰囲気はないけど。  ふわふわしたものが好きなんだ。  ちょっと意外だけど、なんか、好みが可愛い。 「ああ、そうだな」  玲央がクスクス笑いながら、ぷに、とオレのほっぺをつまんでくる。 「だから優月のことも気に入るよな」 「だからっていうのは、変な気が……」  ふ、と苦笑してしまうけど。  玲央も面白そうに笑いながら、だからって気がするんだよなーと、しみじみ言う。  

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