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第805話◇
ウサギをめちゃくちゃ可愛がってから、小屋を出て少し歩くと、バラが綺麗に咲いていて足を止めた。
「すごいなぁ……バラ園に来てるみたい」
「バラ園って行ったことある?」
「行かない?」
そう聞くと、玲央は少し考えてから、「多分行ったこと無いな」と苦笑い。
「オレ、実家から歩いて行ける山の上にあったから、よく行ってた。絵も描いたし」
「へえ。バラの絵?」
「うん。あと、山の上だから、空が綺麗で」
懐かしいなあと思いながらそう言って、ふと周りを見回す。
「でもここがあるなら行かなくてもバラ見れちゃうね。なんかバラって綺麗に咲かせるのが大変って母さんが言ってたんだけど」
「ここは、うちの庭師がやってるかな。母さんもじーちゃんも好きだけど、多分世話はしてないんじゃないかな」
「そうなんだ」
なるほど。ふむふむ。「うちの庭師」。
物語の、もしかして、お城の庭とかに居る人……? それか、やっぱりドラマの、超豪邸に居る人……かな?
「庭師っていう人が居る話を、現実に初めて聞いたかも」
そう言うと、玲央はオレを見て、それからクスクス笑った。
「そっか」
「うん」
大きな家にトラックで庭師が入ってて、樹の形を整えたりしてるのは、見たことあるけど。
うちの庭師、って言ったら話が違うんだろうな。
「そういえば、勇紀とか、皆の家もこんな感じなの?」
言ってから、あの学校に幼稚園から入ってる人達は皆お坊ちゃまって聞いたことがあるような。と思い出した。
「多分似たような感じって思うかもな」
「やっぱりそうなんだ」
ふむふむ。なるほど。てことは、なんかオレの周りに今、なんかやたらにお坊ちゃまが居るのかな?
美咲と智也は、なんとなく同じ位のおうちに住んでる気がするし、過去いっぱい友達の家にお邪魔してきたけど、ここはレベルが……天地程離れてるような気がして、もうなんか比べるというよりは、興味しかないような。
「あ、そうそう、久先生のお家も大きくて、子供の時、びっくりしたんだけどね。ほんと、お殿様のお城の中みたいって思って、大騒ぎしてたの覚えてる」
「おとのさま……」
懐かしいと笑いながら言うと、玲央はクスクス笑いながら、なるほどね、と頷く。
「なんかすごそうな気がするな」
「うん。ほんとすごいから見てみてほしい」
「いつか見せてもらえるといいな」
「うんうん……ってオレが勝手に言うことじゃないけど」
笑いながら、二人でのんびり歩いて、色とりどりのバラを目に映す。
「ほんと綺麗。絵に描くの楽しいんだよ。バラ、描いたこと、ある?」
「あると思う?」
「普通ないよね」
ふ、と笑い合ってから、オレは一つのバラに近づいた。
「花びらが一枚ずつ重なってて、ちょっとずつ色が違ってて……」
「……つか、これを細かく描いてたら、すごい作業だな」
「そうそう、細か~く描くんだよ」
笑いながら玲央を振り返ると、玲央も、そっか、と笑う。
「オレは、最初うすーく塗っておいて、段々濃くしてくんだけどね。花も葉っぱも、同じで」
「へえ。こうして見ると、色、少しずつ違うんだな」
こっちのが濃いし、影とかも出来てるし……なんて言いながら、玲央が真剣にバラを見つめてる。
「色を塗ってるとこ、見てみたいかも」
そんな風に言ってくれる玲央を見つめながら、オレは、微笑んでしまう。
「なんかそうやってね」
「ん?」
「オレの話、すごくちゃんと聞いてくれるの嬉しい。ありがと」
「礼言われるとこ?」
玲央はオレを見つめ返して、少し不思議そう。
「うん。嬉しいなあって思って」
「優月もオレの話、ちゃんと聞いてくれるだろ」
「それは聞くでしょ。聞きたいもん」
「それと、一緒だけど」
当たり前のことみたいに言われて、ちょっと数秒見つめてしまう。
「ん。そっか。一緒だね」
「ん」
頷いてくれるのが、すごく嬉しく感じるのは。
多分、オレが玲央のこと好きすぎるからかな。
同じように、話、ちゃんと聞きたいって思ってくれるの、それだけで、嬉しい。
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