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第806話◇

 玲央とのお散歩を終えて、希生さんの家の方に戻ったら、鯉のエサの時間になっていて希生さんと一緒にエサをあげた。さっきは少しあげさせてくれてただけみたいで、本格的にあげると、また本気で食べられそうなほど鯉の口が……なんか夢に出てきそうだなーなんて思いながら笑ってしまった。  あ、もちろん玲央の鯉にも、ちゃんとあげた。なんか幸せ。玲央の鯉。  それから夕食。またお手伝いさんたちが来て、せっせと色々出してくれたんだけど、またほんとに豪華でおいしかった。玲央の料理が、見た目が綺麗でおいしいのって、習ってたのもあるかもしれないけど、こういうちゃんと作られた料理をよく食べてたからなのかなあ、なんて思ってから、はっと気づく。  母さん。オレは母さんのごはんが一番好きだからね、と、聞こえてない母さんに心の中で言い訳してみたり。でもやっぱり、料理って、手間をかけるほどおいしくなるのかなとしみじみ思った。  出すのも下げるのも、お店みたいに人がやってくれて、ちょっと落ち着かない。……オレ以外の皆は慣れてる感じなので、特に何も言わないでいるけど。  隣にいた玲央が、ん? と笑って首を傾げてくる。……優しいそれが、ほんと好きだなあとしみじみ思いながら、ううん、と首を振る。  玲央のまとう空気が、なんだかゆったりしてるの、希生さんと似てるなあとしみじみ。ふたりとも、すごくしゃきしゃきしてそうな見た目なのに、なんか優雅というか。……独特。  食事をしていたテーブルから立ち上がると、希生さんと久先生は、ちょっとお酒を飲もうと言って、カウンターの方に向かって行った。オレ達はどうするのかなーと思ったら、蒼くんが玲央に視線を向けてくる。 「ビリヤード、やりに行く?」 「あ、そうですね。――優月も教えるから行こ」 「うん」  希生さん達に声をかけて、廊下に出た。なんか蒼くん、ちょっとワクワクしてるように見える。笑ってしまいながら二人について歩いていると、蒼くんが、優月は何で笑ってんの、と聞いてきた。 「だってなんか、蒼くんがすごく楽しそうに見えて」 「久しぶりなんだよな~。玲央、いい勝負できそうだし」 「オレ、そんなできるなんて言ってないですけど」  苦笑いの玲央に、蒼くんは、ふーんと面白そうな表情を見せる。 「なんかお前って、出来ないですよーて言いながら、出来そう」  蒼くんの言葉を聞いていたら、玲央が答えるより早く、ふふっと笑ってしまった。 「なんかそれって、蒼くんもそんな感じだよね」  思わず出た言葉に、玲央と蒼くんは顔を見合わせて、苦笑い。 「オレと玲央が似てるってこと?」  蒼くんが言うと、玲央は、光栄ですけど、とか言ってクスクス笑って、蒼くんに、「お前そういう大人な反応、デキるんだな」と突っ込まれている。  でも。似てなくはないって、ちょっと感じる。  お家の感じが一緒で。希生さんと久先生があんな感じで仲良し。玲央にとってはおじいちゃんだけど、一番一緒に居た、みたいなこと言ってたし。  顔がめちゃくちゃ整ってて、なんかそれだけで目立って色々ありそうな感じとか。さらっとなんでもできそうな感じとか。あれれ、結構似てるのかな。  しいて言うなら、蒼くんは、多分オレを、弟か何かだと思ってて、からかって遊ぼうという姿勢が前面に出てきてていたずらっ子みたい。……って、多分、他の人にとったら、蒼くんがそういう感じじゃないのは、もう、色んな所で見て知ってるけど。まあ、蒼くんの態度もその人達向けと、オレ向けでは全然違うし。  玲央は……いっつも優しいから。蒼くんとは違うけど。でもたまにからかわれるというか。笑い上戸な時もあるから、やっぱり似てる感はあるような。  そんなことを考えながら、部屋に入ると。  二人はちゃきちゃき動いて、何やら、あの長い棒も出してきてるし、あっという間に「ビリヤードする人」になってる。  正直、何も分からない上に、なんかもう、二人で勝負でもしそうな雰囲気に見えてくる。  えっと、オレ、やっぱり応援する人でいいかもしれない。  あと、台が二つあるから、オレはこっちで、たまをつんつんしてる感じで全然いいんだけど。  と、そう思っているのだけれど。  ふと振り返った玲央に。 「優月、おいで」  と言われたら。  それはもう「うん」って、玲央の側に直行。  ……もうなんか条件反射みたい。  横で蒼くんが、面白そうに見てるけど。  そこは、構ってられない。   先に手と指のストレッチしとこ、と、玲央に指を伸ばされ始めたから。

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