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第810話◇
「あ、もう勝負ついたの?」
玲央と蒼くんを見上げると、「一点差でオレの勝ち」と蒼くんが言う。
「ていうか、オレのが経験値あんのに、一点差ってなー」
蒼くんがそんな風に言うと、玲央は、苦笑い。
「でも勝てる気は全然しませんでしたよ。ぎりぎりついてった感じです」
「……すげー真剣にやったし」
蒼くんが言うと、「大人気ないなー」と久先生。その言葉に蒼くんは苦笑した。
「気ぃ抜いたら負けそうだったからな」
「光栄ですけどね」
クスクス笑う玲央に、蒼くんはまた苦笑を浮かべる。ふとオレを見下ろして
、蒼くんが聞いてくる。
「優月たちは将棋してたんだ。誰と誰が戦ってたんだ?」
「元は、希生さんと久先生だったんだけど……」
「「元は?」」
玲央と蒼くんがかぶって同じことを聞いてきた。そうだよね、と、クスクス笑ってしまう。
「なんか最後の方は、三人で相談しながらになってて」
「なんだそれ」
蒼くんが笑いながらそう言って、ちょっと呆れモード。
「優月くんが面白い戦い方するから、ああでもないこうでもないって始まったんだよな?」
「面白いですか?」
「面白いね。自由でね。セオリー通りじゃないというか」
「オレがちゃんと、勉強出来てないだけかも」
苦笑しながら言うと、希生さんは微笑む。
「基礎が無くてセオリーが分かってないとか、そういう意味じゃないよ。なんだろうなぁ……なんだか、予想してない方に展開していくというか……」
「優月らしいよね。いい意味で、すこし自由で……たまに驚くというか感心する」
「……褒められてますか?」
ふふ、と笑いながら聞くと、二人は、褒めてるよ、と同時に言って笑った。
そうかなあ? と笑ってると、希生さんが、「面白くて時間かかったな」と言いながら、皆を視線を流す。
「順番に風呂入ったらどうだ?」
あ、確かに、と思っていると、玲央がオレを見る。
「ん?」
「先入ってこいよ。疲れたろ」
そう言う玲央に、別にそんな疲れてないよと言おうとしたら、「そうだね、少しは気疲れするだろうし。恋人の実家ってのは」と希生さんも笑う。
玲央は「バスタオルとか場所教える」と言いながら歩き出した。
「じゃあ、お先に行ってきます」
立ち上がると、皆が頷いてくれる。でも蒼くんが。
「教えるとか言って、一緒に入んなよ」
クスクス笑いながらそう言う。もーこの人はー。
「帰らなかったら一緒に入ったと思ってください」
玲央が、ニヤと笑いながら言うと、はいはい、と蒼くんも笑顔。
「のぼせさせんなよ」
「……させませんよ」
希生さんと久先生の前での、二人のやり取りがあまりに恥ずかしすぎるので、「オレ、一人でいってくる」と離れた瞬間。
「冗談冗談。一緒に行くって」
玲央が笑いながらオレの腕を掴んだ。
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