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第812話◇
「……きもちーなぁ……」
髪の毛と体を洗ってから、めちゃくちゃ広い湯船に浸かる。
思わず、声が漏れた。背中を湯船に寄っかからせて、そのままぼー、と上を見上げた。
……玲央のおじいちゃんのところで、お風呂入ってます、て言ったら、母さんとか双子たち、きっとすごく驚くだろうなあ。父さんはまだ意味分かんないかな。
しかも、そのおうちが、こんな感じだって知ったら……特に双子たちは、大騒ぎかも。くす、と笑ってしまう。
「優月ー?」
外から玲央の声が聞こえてきたので、はーい、と答えると。
「服も下着も、優月の用意してたやつだから着ていいって」
「あ、うん。ありがとう」
そう言うと、バスルームのドアが開いて、玲央が顔をのぞかせた。
「風呂、どう?」
「ん……めちゃくちゃ気持ちいい」
「そっか」
ふ、と笑って玲央が頷く。
「……玲央も入ったら?」
そう言うと、玲央は、ふ、と笑ってオレを見つめる。
「……まあ、なんか、一緒に入ってきちゃえば? とは言われた」
「うん」
「頑なに断るのも変かなーとは思ったけど」
玲央が苦笑い。
「……あーでも、優月がそこでそうやって埋まってくれれば、入れるかも」
……確かに今オレ、完全に、全部埋まってる。
乳白色の入浴剤が入ってるから、顔しか見えないだろうし。
うんうん、と頷くと。玲央は、ふ、と笑いながら、上を脱ぎ始めた。
「もういいや。気にしないで入ることにする」
そんなことを言って、クスクス笑う。
……ドキ。
玲央が上半身裸になって、そのままズボンのベルトにも手をかける。
弾んだ心臓に、オレは玲央から目を逸らして、ぶくぶくと口元まで、お湯に沈んだ。
……ていうか、あれだよね。今のオレは、玲央からは見えないから確かに玲央は良いんだろうけど。
オレから全部見えちゃうじゃんね……。
――――……ほんと。カッコイイなあ、玲央。
特に隠すこともなく。……ていうか、玲央は最初からそうだったけど。
全然隠すことなく、中に入ってきて、シャワーを浴び始める。
ぶくぶくぶくぶく……。
鼻で息をしたまま、なんとなく視界に入ってくる玲央に、ずっとドキドキしてしまう。
入っていいよーとか言ったけど。
……なんだか、へんに、緊張。
なんかこうして考えてると……オレってば……すっごい意識しちゃってるなあ。むむ。
なんかもう。
……玲央がさ。キスとか、すごく上手でさ。
玲央とするまでは何にもしたこと無かったけど、もう今となっては。
玲央とくっつくと気持ちいいことを、オレは知ってて。
……なんかもう、玲央が意識してないのに意識しちゃうとか。
わーん、なんか。
……オレの方が、やらしい……みたいな気がしてくる……。
ぶくぶくしてると、ぷっと笑う気配がして、見上げると、玲央がクスクス苦笑している。
「何してンの? 可愛いんだけど」
のびてきた腕に、よしよし、と頭を撫でられる。
濡れてる玲央は、もうまた、ほんとに。カッコいいんだよう……。
カッコいいを、存分にまき散らすの、セーブしてくれないかな。
……んー。考えてることは、あんまり可愛くないのだよう、玲央。
もう、ドキドキしてしまう……。
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