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第832話◇

 しばらく、くっついてたけど。 「玲央、起きよー?」  七時だし、せっかくいつもとちがうところに居るし。  希生さん達が寝てたら、お庭お散歩もいいなぁと話すと、玲央がいいよ、と笑ってくれた。  部屋にある洗面台で顔を洗って、身支度を整える。 「なんか、ほんとにあちこち、ホテルみたい」 「そう思う?」 「そうとしか思えない……ていうか、この部屋だけで、すごく広いし」 「まあ、そうだな。このベッドとテーブルだけじゃもったいないよな」 「うんうん」  泊まる部屋だから十分なのだろうけど。  置いてあるテレビもめちゃくちゃでっかい……。 「なんか、別に聞きたいわけじゃないんだけど……一か月のお給料が、どれくらいだと、こういうお家を建てられるんだろう??」 「……さぁ。オレも分かんねーな」 「うーん……謎だねぇ」  そう言いながら、鏡の前で髪をとかしてたら、玲央が近づいてきた。 「ブラシ貸して」 「あ、うん」  持ってたヘアオイルをオレの髪につけてくれて、とかしてくれる。  優しい手つきに、ちょっと玲央を振り返る。 「玲央は、やっぱり美容師さん、似合うね」 「この前も言ってたな」 「うん。だって、なんか……似合うんだもん。もう、カリスマ美容師っていうのになれちゃうよ、絶対だよ」 「はは。そう?」 「うんうん」 「カットが下手だったら?」 「うーん。もう、立ってるだけで? あ、こんな風に、最後のスタイリングみたいなのするだけでいいと思う。女の子、皆、玲央にやってほしいだろうなぁ……」  ふ、と玲央に笑われるのだけれど。 「あ、男子も玲央にやってほしいと思う。なんか、玲央にされるとカッコよくなる気がすると思うし」  うんうん、と頷いてると、玲央はますます可笑しそうに笑ってから。 「じゃあ、優月も今、カッコよくなってる気がしてる?」 「えっ」 「今、オレがやってるから」 「……んー、うん。カッコよく、はあれだけど、でも、玲央にセットしてもらって学校行くと、なんか違うって言われるよ」 「そうなのか?」 「うん。なんか今日おしゃれ、とか。……ていうか、そうだ、それで、オレね」 「うん」 「今までのオレって、どう思われてたんだろ?って、ちょっと思ったの」  あはは、と笑いながら言うと。 「セットしないサラサラだったからなー、優月」  オレの髪を弄って、ちょっと毛先を跳ねさせる。 「こういうのちょっとするだけでも、セットしたって感じになるからな。少しは見た感じ違くなると思うよ」  確かに、少し……ていうか、大分違う。   「いつもの優月は、いじってない感じが可愛いと思うけど」 「……」 「たまにはセットするのもいいよなー?」  はい、おわり、と言うと、玲央はくるっと、オレを自分の方に向けて見つめる。 「可愛いよな」  そう言って、なんだかやたら優しく笑うので。  胸の中はきゅんの嵐だったりする。 「でもオレ、なんもつけてない、サラサラの髪にさわってんのも、すげー好き」  多分、玲央は、オレをキュンすぎで、 息ができなくしようとしてるのかな。と。そう思ってしまうレベル。  ダメだな。  玲央が美容師さんになって、女の子も。いや。男の子もだな。  可愛いとか、カッコいいとか、似合うとか、普通に褒めただけで。  めちゃくちゃ玲央のこと好きになってしまいそう。  うん。美容師さんは、なるべく避けてもらう方向で……。  …………って、別に玲央、美容師さんになるって言ってなかった。  キラキラした顔して、オレの髪に触れて、「ここもうちょっと……」とか、なんかこだわってる玲央を、下から見上げながら。  ふふ、と笑ってしまった。       

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