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第833話◇
部屋を出ると、まだ静かだった。
一階に降りて人の気配がするところを玲央と覗いたら、朝食の準備をしてくれている人たちがいた。いい匂いがする。玲央と顔を見合わせてから。
「おはようございます」
二人でそう言ったら、そこの人達が振り返った。
玲央を見て、あ、玲央さん、とそこの皆が笑う。
「おはようございます」
玲央に言った後、オレにもそう笑いかけてくれる。
「早いですね?」
「少し外を散歩してくる」
「いってらっしゃい。食事はいつでも出せますので」
「まだじいちゃん起きてないよね?」
「まだお顔は見てませんが、起きてらっしゃると思いますよ」
「了解」
「玲央さん、どうぞ」
ペットボトルの水を二本、渡してくれた。
「ありがと。あ、名前、優月だから。優しい月って書いて、優月。また連れてくるから、覚えといて」
玲央がオレに視線を投げながら、笑顔でそう言うと、はい、と微笑まれる。後ろの方に居る人達も、こっちを見てにっこりしてくれてる。
「優月さんですね。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
紹介してもらえたのも、また連れてくるとか言ってくれたのも、なんだかとっても嬉しくて。
それよりもっと、玲央がオレを見つめて笑ったのが、なんかすごく優しかったので嬉しすぎて、すっごい笑顔で頷いてしまった。
見送ってもらって屋敷の外に出て、どっちにいこうかとちょっと立ち止まる。
「ぁ、玲央の鯉に挨拶しにいこ」
オレの鯉、と玲央がクスクス笑って呟いてから、いいよ、と池の方に向かって歩き始めた。
「さっき、すごい笑顔だったな」
玲央がオレの頭をポンポンと、撫でる。
「さっきって?」
「よろしくお願いしますって言った時」
「あ。うん」
だってなんか色々嬉しかったから。
「自然とさ……」
「うん??」
玲央を見上げる。
「自然と、また連れてくるとか言ってる自分に気づいて、ちょっとあん時、笑ってた、オレ」
「――――……」
あ、だから。すごく笑顔だったんだ、玲央。
「オレは、なんかその笑った顔が嬉しかったから、すっごい笑ってた」
「あ、そうなのか?」
「うん。また連れてくるも嬉しかったし、紹介してくれたのも嬉しかったんだけど……なんか玲央がニコニコなのが嬉しかった」
ふふふ~と笑ってると、玲央は、クスクス笑って、またオレの頭をくしゃくしゃ撫でた。
「あそこの人たちって、長いの?」
「長い人が多い。あんまりやめないんだよな。たまに、結婚するから、とかでやめてく人はいるような気がする」
「なるほど」
希生さん優しいし、なんか雰囲気良さそうだったし。
……こんなきれいなお家でお仕事とか。しかも住み込みとか言ってたし。
「なんで長いって思った?」
「だって、玲央さん、とか言って、皆すごく笑顔だったし」
「ああ。……昔は、玲央くん、だった人たちも居るよ」
「あ、さんに変わったの?」
「そう。高校卒業して、じいちゃんが、さんにするか? て言いだしてさ。なんかこのままだと大人になってまで、玲央くんになりそうだから、とか、言ってた」
「なるほど」
「あんまり来てなかったから、玲央さんて呼ばれるのはまだ全然慣れてない」
ふ、と笑ってる玲央に、そっかー玲央くんかー、なんか可愛いなぁ。
……玲央が可愛い頃、ここに希生さんといて、それを見守ってた人達、かぁ。
……それは、もう、玲央を見る雰囲気が優しいのも納得。
しかもこんなカッコよく育ってて、誇らしいくらいな気分では。
と、勝手に想像して、ふふ、と笑ってしまった。
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