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第845話◇

 玲央は少し不思議そうにしてたけど、なんだか嬉しそうに微笑むと、キスが降ってきて、しばらく続いちゃって、そのままぎゅー、と抱き締められた。とくに聞かれなかったので、玲央が綺麗っていうのの説明はしなかった。何回か綺麗って口走ってる気もするから、なんとなく受け止めてくれたみたいな気がする。  ほんとに。真っ直ぐで綺麗だなって。思う。  しばらく玲央の腕の中に居て、それから、身支度整えて、外に出た。  昼過ぎ。太陽は高くて、明るい。駅の方に向かうと人がめちゃくちゃ多くて、玲央がオレの手首をそっと掴んだまま歩いてくれてる。  なんか、朝まで希生さんちに居て、今までホテルに居て、抱き合ってて。  出てきてもこんなにまだ明るくて、なんだかすごく不思議な感じ。  ホテルで玲央がお店を検索してたから、多分そこに向かってるのだと思って、ついていってたのだけど。玲央がふとオレを振り返った。 「先食べよっか。カフェみたいなとこでもいい?」 「うん。そういえばお腹空いた」  そう言うと、玲央はクスクス笑って、「運動したもんなー」なんて言ってくる。もう絶対からかって、わざとだなーと分かっているのだけど、かぁっと赤くなるオレ。だって思い出しちゃうし。ふ、とまた目を細めて、玲央が頬に触れる。 「すぐ赤くなる」  楽しそうに笑いながら、そんな風に言う。だって、と思うんだけど、実際、文句は出ない。だって、玲央の顔、優しいから。  通りがかりのカフェで足を止めて、玲央がオレの顔を見る。「メニュー見てみて。ここで良さそう?」と聞かれて、入り口に置いてあるメニューを確認して、頷く。少し並んで入った店内は。 「オシャレだねー」  白いテーブルに、白い椅子。荷物を置くカゴすら可愛い。  ……オシャレっていうより、すごく可愛い感じ。男二人で入る感じじゃないかも。と思って周りを見ると、やっぱり女の子ばかり。  女の子は目ざとくて、玲央をチラチラ見てる子たちがすでに居る。 「ちょっと可愛すぎた?」  玲央がクスッと笑ってそんな風に言う。 「ここまっすぐ行ったとこに、行きたい店があるからさ」 「うん。いいよ、ここで」  サンドイッチとコーヒーを頼んで、お冷を口にする。 「優月、疲れてないか?」  疲れ?……疲れるようなこと。いっぱいしたもんね……。  …………っ返事を返すよりも、顔に熱が。 「ライブ行くのに、あんま手加減しなくてごめんな」  手加減しなくて……。たしかに手加減無しで、なんかいっぱいされたような。……でも、時間的には短かったから、まだだいじょうぶ……とか言うのもちょっと恥ずかしい。 「……玲央は、疲れて、ないの??」    顔は熱いけど、でもむしろ、オレはより、動いてるの玲央だし。……って、動いてるのって恥ずかしいから言えないけど、でも、どっちかというと、疲れてるのは玲央なんじゃと思って、聞いてみると。 「全然」  けろっとして言う玲央。 「むしろ、元気になったというか? ていうかむしろ、足りないかな」 「――――……」  ダメだ。  ぼぼぼぼぼ。  むしろ元気にっていうのもなんかおかしいし、足りないって言われるのも……! なんかもう、さっきの自分とか、熱っぽくてやらしい顔してる玲央が、頭の中によみがえってきてしまって、もう、無理。  テーブルに肘をついて、両頬を挟んで俯く。

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