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第852話◇

 ホールに入って、チケットの番号を見ながら席に着いた。VIP席はめちゃめちゃ舞台に近くて、びっくり。これだともう歌う人達、ほんとすぐ側って感じ。端から、甲斐、颯也、勇紀、玲央、オレ、で横並びに座った。   「今日出る人たちって、先輩なんでしょ?」 「そう。去年オレ達が負けた人達」  玲央が苦笑しながら言うので、「そう言ってたよね。仲のいい人達なの?」と聞いてみると。 「全然。普段会わないし。あの大会の時に初めて会って、挨拶くらいはしたけど。そんな感じだよな?」  玲央か皆に聞くと、皆も頷く。 「一年と四年なんて学校でも会わないしね」 「大会で結果が出て、ステージの上で話したくらいかも」  そう言う勇紀と颯也に「なるほどー」と頷く。 「でもさすがにここにいたら、気付かれるかもな。覚えてたらだけど」  と甲斐が笑う。 「皆の顔、そう簡単に忘れないと思うよ。一人なら気付かないかもだけど、皆一緒に居るし。あれだね、ここで見てたら、その先輩達、びっくりするかもだね」  ふふ、面白いなあ。 あれ? って顔、されたりするのかなあ。気付くか、見てようっと。 「オレ、その人達初めて見るから……ちょっと楽しみ」  なんだかわくわくしてきた。すると、玲央がオレを見て「すごい楽しそうだな?」と微笑む。 「だってさ、玲央達すごいのに、それに勝った人達なんでしょ。なんかもうそれだけで、すごそうだもん」  そう言うと、皆は「オレらの評価がめっちゃ高くない?」と笑ってる。 「えー高いよ、評価。皆めちゃくちゃカッコいいし、歌も好きだし、なんていうか……熱、みたいなのがあって、すごく、感動するし」  この前見たライブを思い出しながら、そう言うと、皆、クスクス笑う。 「まあ優月は、玲央が歌ってるから余計ってのもありそうだけど」  勇紀がクスクス笑いながらオレをからかうので、「違うもん。あ、でもそれもあるかもだけど」とよく分からない反応を返してしまうと、また皆に笑われたけど。 「でも、違くて、それ抜いても、すごく、感動したよ。皆、練習もカッコいいもん」  言い切ると、玲央が、ぽふぽふ、とオレの頭をなでる。 「負けた理由、な。一応みんなで考えたんだよな、去年」  玲央の言葉に、皆が苦笑しながら頷く。勇紀が、続けて、クスクス笑う。 「そうそう。今まで人気投票とかも負けたこと無かったしさ。結構オレら、ショックだったもんね」 「まあでも、中高の遊びみたいな中では、良かったっつうだけの話だったって結論になって……」  颯也も考えながらそう言って、ふ、と苦笑い。 「で、結局、本気度の違いだなって結論かな。あの人達はプロを目指して頑張ってて、真剣度も全然違ったし。優月が言った「熱」みたいなの、マジですごかった」  甲斐の言葉に、そうなんだ、と頷くと、玲央が、ふ、と笑った。 「あれからだもんな、もっと頑張ろうみたいな、言い出したの。だから、優月は、オレらが負けて、頑張ろうって言い出して、一年弱経ってから見てるから、どうして負けたのって思うかもだけど――……」 「そうだよ、それまでは練習とかだって、結構適当に楽しくわいわいできればいいやって感じだったもんね」 「練習の回数も全然。してなかったよな?」  ははっ、と勇紀と甲斐がおかしそうに笑う。 「てことは、優月は、過去一番良いオレらから、見たんだな」  颯也がクスクス笑って、オレを見つめてくる。確かに。なんかお得な気分。 「しっかも、あれだよね、玲央、優月に夢中になっちゃってるから、いいとこみせようと思って、超頑張っちゃってるしね。その玲央を見てるんだから、そりゃ、カッコいいってなるよねー」  あはははーと笑って、勇紀がそんなことを言ってくる。  いいとこ見せようと頑張って……くれてるのかな? 隣の玲央を見つめると、玲央は、クスクス笑いながら、「まあ、否定はしないけど」と言ってくる。キラキラな瞳が、オレを見て揺れるので。  玲央の向こう側に皆が見えては居るのだけれど。  間近で、そんな風にキラキラ見つめられると。  かぁ、と頬が熱くなる。 「はいはい、そこ、こんなとこでラブシーンやめてね。後ろから丸見えだから」 「そんな明るくねえし大丈夫だよな?」  本気で玲央しか見れなくなっちゃうから今はやめてください。  なんて思って、「だめだめ」というと、ちょっと面白くなさそうな顔をした玲央の手が、頬にふれて、ぷに、とつまんだ。 「あーもう。優月はいちいちそんな可愛い顔で反応しなくていいからね」  勇紀が呆れたように言う。  ……玲央がオレだけを見ちゃうと、向こうの三人からはオレの顔しか見えなくて。ちょっとこの座り位置は失敗かな……むむ。

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