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第853話◇

「ほんと玲央に、いちゃつくな、なんて言う日が来るとは……」  勇紀が言うと、皆が、ほんと、と笑ってる。 「優月はさ、会った時から、玲央が優月にこんなだから、昔の玲央を知らないじゃん?」 「……それはそうかも」  ふむ、と頷いていると。勇紀が「クールを地でいってたんだよねぇ」としみじみ言ってる。 「まあ今も、顔が変わった訳じゃ無いんだけどな……」  颯也の言葉に、甲斐が面白そうに笑って、「そうなんだよな」と頷く。 「顔は変わらないのに、人って、こんなに雰囲気変わるかね。まあ、バンドのファンには、今まで通りのイメージで見せとけよな?」  甲斐の言葉に、玲央は苦笑して、「ステージに優月が居ないから平気だろ」と言った。 「優月がステージに居たら、ちょっと分かんねえけど」  なんて笑いながら玲央がオレを見つめてくる。  オレはふふ、と笑って、「ステージになんてあがらないから大丈夫だね」なんて答えたのだけれど。途端に、玲央と皆が、面白そうな顔でこっちを見た。 「? どうしたの?」 「なんか今――ちょっとおもしろい妄想しちゃった。ってか皆も? 玲央も?」と勇紀が皆に聞く。 「優月、ピアノ弾けるんでしょ? 玲央が歌って、優月が弾いちゃうとか、ちょっと浮かんじゃった」  勇紀のとんでもない発言に、オレは、えっ!とものすごい、びっくり。 「えっ……てか、無理だよー! それにそれじゃ、オレステージに乗っちゃうし。今の話と、違っちゃうじゃん」  無理無理と首を振っていると、何だか、玲央も含めた四人。  じー、とオレを見つめてくる。 「え……何……」  ふーん、みたいな感じで、皆がニヤニヤしながら顔を見合わせてて。  なんだかよく分からないけど。 「あの……ステージとか、無理だからね?? 本気じゃ無いとは、思うけど」  なんだか冗談なんだかよく変わらない雰囲気だけど、とりあえず、無理アピールだけ伝えると。 「まあ、ぶっつけは無理だよな。練習しないと」  という玲央のセリフ。 「――――???」  練習???  クスクス笑いながら、四人がこそこそ話してる。  ええ。何……。 「玲央……?」  つんつん、と玲央の背中の服を引っ張ると、振り返った玲央がオレを見つめて。ふ、と微笑む。 「なんかその引っ張り方、すげー可愛い」  よしよし、とあたまを撫でられて、ふわ、と気持ちが綻んでしまう。 「夏に回るライブハウスとか。ちっちゃいとこならいけんじゃね?」  颯也の声が聞こえる。  勇紀が、いいね、と楽しそうな声も。 「ピアノって、発表会とか、やってきた? 優月」 「え。ぁ、うん、まあ……」  甲斐に聞かれて一応頷くと、「そっか」とにんまり笑われる。 「えええ……」 「まあ。案として、だから」 「嘘でしょ、玲央……」  クスクス笑う玲央に、「無理だよー」と訴えていると。  急に、会場が暗くなった。    あ。始まるのかなと、そっちに意識が向く。  すごく、わくわくする。 (2024/10/11)

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