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第860話◇

◇ ◇ ◇ ◇  皆で教習所の話であれこれ盛り上がった後は、明日も学校だしってことで、早めに解散した。  皆と別れて、駐車場にむかって歩き始める。 「楽しかったね」  言いながら、玲央を見上げる。 「じいちゃんちから出て、ホテル行って、ライブ行って、皆と店行って……ほんと、なんかじいちゃんちが遠く感じるよな」 「うん。遠いー。……けど、希生さんのおうちも、すごく楽しかったし……」 「ん」 「ボールも貰っちゃったし、玲央とずーっと一緒だったし。なんか今日は、幸せなことありすぎて大変だった」  そう言うと、玲央はちょっと黙って、んー、と考えてる。  途中でじっと見つめられて。何か言いたげな。 「――幸せって、優月がよく言うのさ」 「うん?」 「やっぱり好きだと思う。オレ、そんな風に言ったこと無かったから、なんかやたら照れるって思ってたけど……」 「ん」  そういえば、なんか、そういうの言うのって恥ずかしいとか、玲央言ってたなあ。……玲央が言うことの色々なことの方が、いっぱい恥ずかしいことある気がしてたけど。ふふ、と笑いながら玲央を見上げていると。 「……だからオレも、今度思ったら、言うから」  まっすぐ、見つめられて、そんな風に言われると。  なんかオレも今既に、ちょっと照れるけど。 「――今は? 言わないの?」  そう聞いたら。 「今、言うのは、優月の言ったのに乗っかった感じがするから……今度、オレが思った時、自分から言う」 「宣言、してるの?」  クスクス笑ってしまうと。玲央は「してる」と、ニヤッと笑う。 「……じゃあ、楽しみにしてるね」 「――ん」  クスクス笑う玲央が、通りかかったコンビニを見つけて、「コーヒー買いたい。行こ」とオレの手を引いた。 「優月はカフェオレでいい?」 「うん」  自動ドアから入ると、コーヒーのカップを取ろうとした玲央が、「――あ、トイレ行ってくる。待ってて」とオレを振り返った。頷いて手を振って、なんとなく雑誌のところに止まった時。  後から入ってきた、小学生の男の子がオレのところで止まった。一年生とか、そんな感じ。まだ、ちっちゃい。 「……?」 「お兄ちゃんて……」 「うん??」  なんだか一生懸命な顔をしているので、にっこりして言葉を待っていると。 「お兄ちゃんて、アイドル??」 「――……ん???」  アイドル……とは??  ……アイドル…… あ、分かった。 「あ、この髪、かな?」  その子の前に、しゃがんで、髪に触れて聞いてみる。 「うん。これも」  チョーカーとか、アクセサリーとか、色々見ながら訴えてくる。  うーん。勇紀や玲央のチョイスで着飾ると、オレでもアイドルに見えるのか。アイドル……。なんかちょっとおもしろくて、ぷふ、と笑ってしまいそうになった時。 「あっ、すみません、何してるの?」  多分、男の子のお母さんがやってきて、その肩を抱いた。  と、そこに、後ろから、「優月?」と玲央がやってきた。 「やっぱりアイドルだー」  男の子がめちゃくちゃ喜んでいる。  多分お母さんも、突然現れた玲央に、見惚れちゃってるというか。  四人、変な空気が流れたけど。  多分、この変な空気の意味を、全部、分かってるのはオレだけ、と思うと。  ふふ、と笑ってしまった。

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