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第861話◇

 とりあえず、玲央に今の事態を説明してみることに。  クスクス笑ってしまいながら。 「なんかね、髪とかアクセサリーとか見て、アイドルかなって思ったらしくて、アイドル? て聞かれたの」  それを聞いて、玲央が、ふ、と微笑む。 「それで、玲央が来たから、もう、この子、アイドルだって確信しちゃったところみたいだよ」  続けてそう言うと、はは、と玲央が笑って、その男の子の前に、しゃがんだ。 「アイドルに見えた?」  鮮やかに笑う玲央に、男の子は、何秒か惚けて、じーっと見つめた後、こくこくと頷いた。 「んー。ちょっと、違うかな」 「ちがうの??」 「バンド、分かる?」 「……ばんど?」 「四人グループで、歌、歌ってる。アイドルではないんだけどね」  それは分かったみたいで、男の子が「わー」とキラキラな笑顔になってる。可愛い――あと、玲央の笑顔が、優しくて、カッコよすぎる。オレがめちゃくちゃニコニコしてると、玲央はオレを振り仰いで、ふ、とまた笑う。 「こっちのお兄ちゃんは、バンドはしてないんだけど」 「えっ」  そうなの? と不思議そうな男の子に、玲央は「でも可愛いだろ」と言った。ひえ、何言ってんの、と思ったオレを、男の子は、まっすぐ見上げて。 「うん!」  ――可愛いって。ちっちゃい子に、頷かれてしまい、ありがとうっていうのもなんか変だなあ、と思って、ふふ、と笑い返してる間に、玲央がお母さんを見上げた。 「あの」 「は。はい??」  明らかにときめいちゃってると思われるお母さんに、玲央は。 「もう帰るとこですか? すぐお風呂入ります?」 「――??? あ、帰ります。お風呂入ります」  不思議そうに首を傾げながら、微妙なカタコトで答えたお母さん。  何聞いてるんだろう、と思った瞬間。玲央が鞄から、あるものを取り出した。立ち上がって、お母さんに渡す。 「これ、ヘアカラーなんですけど。今、オレ達の髪、これで色つけてて。アレルギーとか、無ければ」  書いてあることをさっと読んだお母さんが、「いいんですか?」と聞いてる。はい、とクスクス笑って、玲央は「ちょっとだけ外に」と一回コンビニを出た。  店の前の空いてるところで、また男の子の前にしゃがむと。 「青と紫、どっちがいい?」 「青がすき!!」  何のことかまだ分かってなさそうな男の子は、多分好きな色を答えたんだと思う。 「ちょっと髪、触っていい?」 「うん!!」  ふわ、と男の子の髪を撫でて、そのまま、ヘアカラーで青を入れていく。するすると、綺麗に入る青色。玲央の手は綺麗で――なんか、やっぱり、魔法みたいだなあ、なんて思いながら見つめていると。 「なぁに?」  不思議そうな男の子に、お母さんが化粧品の鏡を出して、見せてあげてる。  わぁぁ、とキラキラしてる男の子。 「この子とおそろいだよ」  玲央がオレを見ながらそう言うと、男の子は、オレをぱっと見上げて、めちゃくちゃキラキラしたお顔で、笑った。  わー、めっちゃ可愛いなこの子。そんな風に見つめられちゃうと、オレまで、王子様にでもなった気分。それくらいの顔で、見つめられて、可愛すぎて、苦笑してしまう。 「お風呂で洗ったらとれるからね」  玲央がそう言った瞬間。  えっと強張った男の子が、「やだ!」とぶんぶん首を振った。立ち上がりかけてた玲央が「え?」と首を傾げてる。 「とりたくないからお風呂入んない……」  立ち上がった玲央はそれを聞くと、オレと顔を見合わせて、ああ、と笑うと。 「じゃあこれ、あげるから。お休みの日とかに、お母さんにやってもらいな。今日はちゃんと、お風呂入って」  玲央から受け取ったヘアカラーを握り締めた男の子は、少し考えた後、めちゃくちゃいい笑顔で、こくこく頷いた。  ふふ。可愛すぎるな。  多分玲央もそう思ったみたいで、ふ、と笑いながら、その子の頭を、ぽんぽんと、撫でた。   (2024/11/21)

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